乾癬(かんせん)(乾癬性関節炎、関節症性乾癬) とは?

乾癬(かんせん)とは?

乾癬は皮膚に炎症が起こる病気の一つです。原因は不明であり、遺伝性はありませんが、一部に乾癬が多い家族・家系があります。日本における患者数は50万人程度と予想されています。近年、乾癬の患者数が増加しており、もしかすると食事の欧米化が関連しているのかもしれない、と言われています。男女比は同じで、関節リウマチが女性に多いのに比して、この病気は男性も女性と同じくらい発症することが分かっています。また肥満との関連が指摘されています。20代から30代の若い方に発症することが多いですが、60歳台以上で発症することもあります。
皮膚の一番外側にある「表皮」にある細胞は通常1か月程度ではがれて、新しい細胞に置き換わります。乾癬の皮膚はこの期間が短くなっており、すぐにはがれて赤くなり、一部の皮膚は白く付着します。魚の鱗のようなカサカサとした白いものが付着していることもあります。皮疹自体は無症状が多いですが、時にかゆみや痛みを伴います。全身に皮疹は出てきますが、肘、膝などが好発部位です。頭皮や、耳たぶの裏側などあまり目立たない場所に認められることもあります。爪に病変ができることもあり、厚くなったり、はがれたりするので、水虫の爪に似ていることもあります。

乾癬性関節炎(または関節症性乾癬)とは?

上述した皮膚炎である「乾癬」に関節の痛みや腫れを伴ったものを「乾癬性関節炎」といいます。乾癬性関節炎の関節炎は関節リウマチによく似ています。違いは、関節リウマチは手指の第2、第3関節に指の関節炎がでてきますが、乾癬の場合は第1関節を含むすべての関節に出現します。また、関節リウマチでは背骨(脊椎)に病気が出ることは第一頸椎以外まれですが、乾癬の場合、背骨に病気が出てくることもあります。

もう少し細かい違いを申し上げますと、関節リウマチは「滑膜炎」という関節構造の一部に炎症がおこりますが、乾癬の場合は骨に付着する腱の部分に炎症がおこります(付着部炎)。ですから「アキレス腱」という踵の太い腱に病気が出ることが良くあります。乾癬の方に、踵痛がある場合は関節炎の存在に注意する必要があります。「骨破壊」といって骨が溶けて壊れていく変化は、関節リウマチ、乾癬の両方に起こりますが、乾癬の場合、背骨や一部の関節に「骨形成」と言って新たに骨が作られるような変化が起きる場合もあります。

関節リウマチと似ているのですが、微妙に異なるところもありますので、通常の関節リウマチと違う症状が認められる場合は、乾癬の合併を考慮することがあります。一部の乾癬性関節炎では、先に関節炎が出現して、後から皮膚症状が出現する場合もあります。以前、私が経験した症例では、発病当初は「関節リウマチ」と診断されて治療されていましたが、数年後に「乾癬」の皮疹が耳の裏側に出現し「乾癬性関節炎」に診断が変更となりました。「爪乾癬」は本人も爪の水虫だと思っており、医師に伝えていないケースもありますが、しばらくしてから医師が爪の病変に気づくケースもあります。もしも関節リウマチで治療を受けられている方で、爪に水虫のような病変がある場合は一度医師にその点についてお伝えいただけると大変助かります。この場合、皮膚科医師に診察していただき、乾癬の診断にいたる場合もございます。

指関節炎は関節が腫れてくるのですが、「指炎」といって指全体が著しく腫脹し、痛みが出るような事があります。「指炎」は乾癬の方に出現する症状の一つです。また、乾癬の場合、「仙腸関節」という骨盤の背中側にある関節に炎症が出てくることがあります。腰の下の方になりますが、ここに病気がある場合、慢性的な単なる腰痛と思われているケースがあります。「関節リウマチと腰痛はあまり関係ありません」というのは間違っていませんが、「乾癬」の場合は腰痛が関係ありますので、注意が必要です。私たちは「炎症性腰背部痛」といいますが、この腰痛は安静時、朝方の痛みが強く、運動するとよくなります。昼ぐらいになると自然によくなる人もいます。このような腰痛、背部痛は治療を受けていただくと、よくなる可能性があります。

もしも「乾癬」があって、腰痛、背中の痛みなどがある場合、単なる腰痛と思わずにリウマチ科に相談することもお勧めします。乾癬は関節以外には、目に病気が出ることがありますので、一度も眼科に行っていない場合、一度眼科の診察を受けていただくようにしています。自覚症状は乏しいものの、診察を受けていただくと軽症のぶどう膜炎や結膜炎が見つかるケースもあります。

診断

2006年の乾癬性関節炎の分類基準(CASPAR) が用いられます。炎症性の関節疾患(関節炎、脊椎炎、もしくは付着部炎)を有する方で、下記の各項目を1点として3点以上の場合に乾癬性関節炎と分類(診断)します。

  1. 現在乾癬にかかっている(=2点)、または過去に乾癬があった、または兄弟姉妹や両親、祖父母に乾癬の方がいる
  2. 典型的な乾癬の爪病変(爪剥離症、陥凹、過角化)がある
  3. リウマトイド因子が陰性
  4. 指炎がある(あった)
  5. 手、足のX線検査で特徴的な所見(関節近傍の新骨形成)がある

診断には、診察と問診以外に、採血、レントゲン、エコーなどを組み合わせて行います。一部の方には他院でMRI検査をお願いする場合もあります。

治療

皮膚や爪の症状については皮膚科の先生に相談し、連携しながら治療いたします。例えば軟膏などの局所治療を皮膚科で行いながら、関節症状の治療をリウマチ科で行うということもよくあります。個々の患者様の特性に合わせて判断いたします。ここでは乾癬性関節炎、すなわち関節症状や付着部炎に焦点をあてた治療を紹介いたします。
乾癬性関節炎の治療目標は、関節症状の改善、構造的関節破壊の予防、健康に関する「生活の質(QOLといいます)」を高めること、が挙げられます。関節リウマチと同様、最近の考え方は早期診断、早期治療が基本です。
関節炎や付着部炎、指炎については、まず初めに鎮痛薬として用いられるNSAIDS(ロキソニン®やセレコックス®)などを開始します。2,3種類のNSAIDSを使用して、効果のあるものを継続する、ということもあります。「末梢関節炎」(四肢の関節、手指や趾の関節炎)がある場合、NSAIDSが効果不十分であればメソトレキセートやアザルフィジンなどの薬を追加します。後述するPDE4阻害薬をここで試すこともあります。NSAIDSや上記のリウマチに用いられるような内服薬などを使用しても十分な効果が得られない場合、生物学的製剤の治療を検討します。「体軸性関節炎」(背骨の関節炎)、「付着部炎」がある場合、NSAIDS不応であれば、上記内服薬剤をスキップして、生物学的製剤を開始する場合があります。

PDE4阻害剤;アプレミラスト(オテズラ®)

乾癬に対する内服薬として、最近使えるようになった新しいお薬です。最初は少ない量で開始し、6日間で徐々にお薬を増やしていきます。腎機能が悪い場合、投与量を減らすなどの調整が必要です。最も多い副作用は下痢や嘔気といった消化器症状です。これまで抗リウマチ薬(MTXやサラゾスルファピリジン)が効かない場合、注射のお薬が治療の中心でしたが、この内服薬の登場により、治療の選択肢がひろがりました。関節炎に対しても有効性が示されており、関節症状が強い場合も用いることができます。抗TNFα抗体などに比べると長期間の骨破壊抑制効果などについてはまだ不明な点があり、今後データが蓄積されてくると思います。

乾癬に対する生物学的製剤について

関節リウマチを中心とする自己免疫疾患に対し、近年は生物学的製剤が使用されており、「パラダイムシフト」と呼べるような有効性が示されています。乾癬に対してもこの生物学的製剤が使用可能となり、非常に高い有効性が示されています。乾癬性関節炎の患者様に使用可能な生物学的製剤について下記にお示しします。関節リウマチで使用可能なTNF阻害薬を始め、IL-17、IL-12/23、などの別の作用を示す薬剤も用いられています。

これらの薬剤はNSAIDS治療が不応の場合や、MTXなど使用しても治療抵抗性の「末梢関節炎」がある場合に選択されます。生物学的製剤は一種の免疫抑制剤であるため、治療を開始する前に感染症のリスクが無いか、スクリーニング検査が必要です。具体的には各種肝炎や結核などの血液検査、胸部レントゲンなどになります。クリーニングで問題なければ投与可能ですが、治療開始後も、感染症の予防(手洗いや人混みでのマスクなど)などに注意が必要です。

生物学的製剤のメリットはいくつかありますが、内服薬と違って腎機能や肝機能に障害があっても比較的安全に使用でき、多くの内服薬を飲んでいる場合でも安全に追加使用できることがあげられます。デメリットは保険が効くもののまだまだ高額であることです。高額診療の療養費制度を上手に活用して治療を受けることができます。

TNF阻害薬;インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)、セルトリズマブ(シムジア®)

関節リウマチに用いられるTNF阻害薬は5種類ありますが、このうちの3種類が乾癬に使用可能です。詳細は関節リウマチの生物学的製剤の項をご覧ください。いずれも乾癬性関節炎に高い有効性が示されています。インフリキシマブのみ点滴、他は自己注射になります。いくつかの生物学的製剤が乾癬で用いられますが、もしも目のぶどう膜炎や炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)などを合併する場合、TNF阻害薬は第一選択となります。

希なケースですが、TNF阻害薬の投与後に乾癬が増悪することや、乾癬が新規に出てくることがあります。(逆説的反応、パラドキシカルリアクションと言います。)この場合、薬剤の投与を中止し、他の生物製剤に切り替えたりすることがあります。

IL-17阻害薬;セクキヌマブ(コセンティクス®)、イキセキズマブ(トルツ®)、ブロダルマブ(ルミセフ®)

これらはすべてIL-17という炎症物質を抑えることで乾癬における炎症を抑えます。IL-17は皮膚、関節、付着部炎、指炎に有効であり、様々な臨床治験で有効性が示されています。上述のTNF阻害薬に不応の場合でも一定の効果が期待されます。すべて皮下注射の製剤であり、初めの1か月間程度はローディングといってすこし多めの投与になり、その後、減量して維持していきます。IL-17阻害は一部の患者の腸炎を悪化させる可能性があり、炎症性腸疾患のある患者様には使用できません。

IL-12/23p40阻害薬;ウステキヌマブ(ステラーラ®)

体の免疫細胞の中に「リンパ球」があります。このリンパ球はT細胞とB細胞に大別できますが、T細胞の中で特に乾癬などの自己免疫疾患で重要と考えられているのがTh17細胞です。Th17細胞は様々な自己免疫疾患のカギとなる細胞とされており、この細胞の制御によって特に乾癬、強直性脊椎炎などが改善することがわかっています。(ちなみに、関節リウマチにはあまり効果がありません。)ウステキヌマブはIL-12とIL-23という2種類のインターロイキンの働きを抑える薬剤です。p40受容体サブユニットはTh17という細胞の表面に発現しており、IL-23はこのTh17細胞の維持に重要な物質です。このIL-23の働きが抑えられると、Th17の働きが弱くなります。投与間隔は最初だけ1ヶ月の間隔で投与する以降は3ヶ月に1回ごとであり、投与間隔がとても広いことが特徴であり、3か月に1回、という利便性で選ばれるケースもあります。

IL-23p19阻害薬;グセルクマブ(トレムフィア®)、リサンキズマブ(スキリージ®)

上述のウステキヌマブと同様に、IL-23を抑制します。皮下注射製剤であり、乾癬に対する有効性が示されています。維持期の投与間隔が広く、グセルクマブが8週間隔、リサンキズマブが12週間隔であり、利便性が高いです。グセルクマブは「掌蹠膿疱症」にも保険適応があります。