妊娠・出産をあきらめない

関節リウマチの患者様も、妊娠・出産は可能です

関節リウマチは30歳から50歳台の女性に多く発症することから、妊娠、出産という人生の大事なイベントと重なることがあります。このため、多くの女性の患者様からこの「妊娠・出産」に関する質問をよくいただきます。結論から先に申し上げますと、妊娠や出産は計画的にしていただければ十分に可能です。もしも関節リウマチになって、妊娠や出産を踏みとどまったり、あきらめたりする人がいらっしゃれば、それはあまりよい考えではないとお伝えしています。ここでは「関節リウマチ」という病気に限定してお話しさせていただきます。関節リウマチ以外の膠原病には全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群などがありますが、それぞれ注意するポイントや使用する薬剤が異なりますので、別の機会にお話しします。しかし、これらの膠原病も多くの場合で妊娠は可能なことが多いです。ご自身の病気で妊娠ができるか心配な方は、医師にご相談ください。

「関節リウマチ」は疾患の活動性が高い状態(関節が腫れて痛んでいる状態)と、低い状態(お薬がよく効いて痛みや腫れが無い状態)に分けられますが、妊娠を考えているのであれば、まず、疾患活動性の低い状態を目指すことが重要です。あちこち腫れてて痛みがあって体に炎症が多い状態では残念ながら妊娠がうまくいかないこともあります。「寛解」のお話を別にしましたが、この「寛解」状態にもっていくことが大事です。

かつてはよいお薬が無くて、この状態にもっていくことは大変でしたが、最近はお薬の進化によって、「寛解」を達成できる患者様は増えてきています。妊娠を考えて、すべての薬物治療をやめて、痛みに耐えながら過ごしている方がいらっしゃいますが、これはあまりよい方法とは言えません。まず、薬物治療をしっかりおこない、関節炎が無い状態にもっていってから、そこから計画的に妊娠する方が、遠回りに見えて一番確実な方法です。もちろん、女性の場合、年齢的にたとえば40歳を超えてきますと先にリウマチ治療を行うので1年程度待ってください、と言われたら、それは難しいと答えるでしょう。この場合は、妊娠しても問題のない薬剤を中心に使用してコントロールをしながら、妊娠成立に備える、ということもできます。「計画妊娠」とはあらかじめ妊娠しても問題のない薬剤に切り替えて、妊娠をしても問題ない状態にしてから妊娠してもらう、ということです。

妊娠に際して、関節リウマチの患者様がもっとも注意しなければいけない薬剤は「メソトレキセート(MTX)」です。MTXは催奇形性といって、生まれてくる赤ちゃんに奇形がおこるリスクが上昇するといわれています。妊娠中の服用は禁止されています。

現在、MTXは関節リウマチの中心的薬剤であり、多くの患者様がこの薬を内服しています。よって、この薬剤を飲んでいるときは確実な避妊が必要です。MTXを内服している場合、3か月程度休薬してから妊娠を許可します。MTXそのものが卵巣にダメージを与えるわけではありませんので、MTXの内服を中止して3か月以上たっていれば、通常の妊娠が可能になります。MTXを服用している場合、授乳も禁止です。出産後は母乳保育をしている間はMTXの再開はできません。

現在の関節リウマチ診療でもっとも重要な薬剤が使えなくなるのは、関節の事を考えますとあまり良くないことではありますが、妊娠に影響の少ない薬剤を組み合わせてできるだけ妊娠に影響がでないようにします。

次に大事な薬剤は解熱鎮痛薬NSAIDSです。ロキソニン®やセレコックス®などが有名ですがこれらは特に、妊娠後期からは使用を控えることが推奨されています。またCOX2阻害薬のセレコックス®やハイペン®、モービック®などは妊娠前から服用を中止したほうがいいです。関節リウマチの関節痛にこれらの薬剤が使用されることはとても多いですが、関節リウマチの状態を安定させて、これらの薬剤を使わなくても大丈夫な状態にしておくことがとても重要になります。アセトアミノフェン(カロナール®やコカール®)は比較的安全に使用ができるとされていますので、これらに変更することも可能です。また痛みをとるという目的で少量のステロイドを使用することもあります。

外来でよく処方されるプレドニゾロンは胎盤を通過しにくいため1日7.5mg程度であれば問題なく使用できます。どうしても大量のステロイドが必要な場合は妊娠合併症のリスクが増加しますので、大学病院や基幹病院などで産科とリウマチ科の連携をしながら妊娠を維持するケースもあります。関節リウマチの場合はかならずしも大学病院や基幹病院にお願いする必要はなく、クリニックレベルでも十分対応可能なことが多いです。病状に応じて、適切な医療機関へご紹介いたしますし、もしも不安な点があればご相談ください。

他、サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)、タクロリムス(プログラフ®)は問題ないと考えられています。逆に、セルセプト、ワルファリン、降圧薬の一部(特にアンジオテンシン変換酵素阻害の薬剤)の使用中、妊娠は禁止されています。

注射系薬剤の生物製剤(抗TNFα阻害薬、抗IL-6受容体阻害薬など)は大きなリスクは示されていないので、投与は可能と考えられています。この中でもセルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)、エタネルセプト(エンブレル®)は特に胎盤移行が起こりにくいため、より安全性が高いと考えられます。妊娠中に生物製剤を使用した場合、産まれてきた赤ちゃんに影響が数か月残る可能性があるためBCGやロタウイルスワクチンなどの生ワクチンは生後6か月以内を控えた方がいい、とされています。

新規薬剤のJAK阻害薬は妊娠中の安全性は確立されていませんので、妊娠前に中止する必要があります。ご自身が内服されているお薬に不安を感じましたら、主治医の先生にご相談いただくか、「妊娠と薬情報センターホームページ」などもご参照ください。

妊娠が判明した場合、安定している関節リウマチの方であれば、投与されている薬剤の安全性などをチェックしますが、クリニックレベルでも対応が可能です。多種類の薬剤が必要な方、合併症をお持ちの方、全身性エリテマトーデスなどの膠原病の方、SS-A抗体をお持ちの方、など、特定の方につきましては、高次の医療機関(大学病院や基幹病院)へご紹介いたします。関節リウマチの患者様が妊娠すると、多くの場合、病気の活動性は落ち着いてきます。ホルモンの働きによるのか、詳細は不明です。妊娠後、それまでよりもお薬が減らせる方がいらっしゃいます。ただし、これも個人差があり、妊娠後に調子が悪くなる人もいらっしゃいます。薬剤の変更、増量など適切に対応して、安定して出産が迎えられるように対応させていただきます。

無事に出産されて、母乳保育をされる方も多いと思います。前述のMTXは授乳中に使用できません。授乳が終わってから再開します。解熱鎮痛薬は問題なく使用できます。サラゾスルファピリジンは赤ちゃんに血性下痢の報告がありますが、頻度は高くないので注意しながらの授乳は可能です。注射系の生物製剤の使用は問題ありません。ワルファリンや降圧薬も妊娠中は禁止されていましたが、授乳はほとんど問題なくなります。授乳が可能かどうか、心配な点があれば主治医にご相談ください。

また、授乳を終えられますと、使用できる薬剤の制限がなくなりますので、特にMTXを休まれていた方は早めに医師にご報告ください。妊娠中に関節リウマチの調子がよかった方も、出産後にまた調子を落とすことがあります。この場合、MTXを早めに再開したほうが良い場合もあります。MTX再開のタイミングは医師とよく相談のうえで検討しましょう。

男性の場合、関節リウマチ治療による妊娠への影響はほとんどありません。MTXは催奇形性があるため妊娠希望の男性は使用しないように記載されています。男性のMTX内服が催奇形性を上昇させないという報告も小数例ですが存在しており、専門家の間でもこの点ははっきりしないのが実情です。

シェーグレン症候群に多く認められる抗SS-A抗体は、関節リウマチの患者様にも保有者がいます。この抗体の保有者の赤ちゃんの10%に新生児ループス、2%に先天性房室ブロック(CHB)が発症する、という報告があります。新生児ループス自体は自然軽快することも多いのですが、CHBについては厳重な管理が必要になります。確率的には低いものの、起こると重篤であることから、しっかりとした検査、治療が可能な施設で妊娠管理をする必要がありますので、この場合、高次の医療機関へ紹介をさせていただきます。

すべての関節リウマチの患者様が安心して妊娠・出産ができるよう、我々は最大限のサポートをさせていただきます。妊娠・出産に関しまして気になる点がございましたら、いつでもご相談ください。