関節リウマチQ&A

関節リウマチは遺伝しますか?

自分の母親が関節リウマチだから、自分も将来必ず関節リウマチになると信じている人がいます。これまでの研究結果をみますと、そこまで心配しなくてもよい、と言えます。関節リウマチはいわゆる「遺伝病」ではありません。一卵性双生児の双子の2人が両方ともに関節リウマチを発症する確率は約15%程度と言われています。もしも遺伝病であれば両方とも関節リウマチになるはずです。
ただし、全く関節リウマチにならないか、というとそこまでは言い切れず、やはり、関節リウマチなどの自己免疫疾患が多い家系はあるようです。これは遺伝的な素因というものであり、HLA遺伝子といって、免疫の血液型のようなものですが、いくつかのHLAに関節リウマチと関連があるものが存在します。こういった遺伝子を持っている場合、もっていない方に比べて、関節リウマチになる確率が上がるといわれています。保険診療でこのHLAを測定することはありませんし、もしもこの遺伝子を持っていたとしても、関節リウマチになる確率がすこし上がる程度ですから、あまり意味はないのかもしれません。遺伝的要素と環境因子の組み合わせ、というのが最近の考え方です。環境因子が揃っていれば、遺伝的要因が無くても病気になりますし、逆に遺伝的要因があったとしても環境因子が問題なければ病気になりません。環境因子ではっきりしているのはタバコ、他にはむし歯や歯周病、ウイルス感染、などが言われています。

関節リウマチは一生治らない病気なのでしょうか?

関節リウマチの自然予後についてはいくつか報告があります。報告にもよりますが、関節リウマチの疑いがある症例のうち、2-10%は自然に治ると言われています。ですから、一部の関節リウマチの方は確かに「治る」といえます。ただし、9割以上の患者様は、残念ながら治療不要になるほど「治る」とは言えません。ただし、治療を受けながら全く痛みが無く、どこの関節も腫れず、健常な方とまったく差が無い状態(いわゆる「寛解状態」です。)になる人は多くなってきました。これは薬剤の進歩によるところが大きいです。一生治らない、と言われるとあまりいい気分にはなれないでしょうし、鬱々としてくる方もいらっしゃると思いますが、現時点では関節リウマチを根治させるような特効薬と呼べるものはまだ発売されていません。現在の医療では「寛解」を目指すことが当面の目標地点です。将来的には「根治」が通常の目標地点になる時代が来るかもしれませんが、今の目標は「寛解」です。治療を受けながら、通常の日常生活を送っていただく、というのが目標です。薬が全く不要になり、病院に来なくてもよい、という「根治」した状態になる方はとても珍しい、といえます。しかし、30年前と比べて、治療薬が進歩していますので、今、関節リウマチを発症しても高い確率で、痛みがなく、通常の生活が送れるレベルまで回復できます。「根治」を目標に設定しますと、なかなか達成できずに暗い気持ちになるかもしれません。「寛解」を目標にした方が、達成する確率がぐっと高まります。関節リウマチは長期にわたって、関節をふくむ全身に影響をおよぼす病気です。病気と向き合い、病気に寄り添いながら、適切な治療を受けて、安定した状態にしていくことが大事だと思います。

膝にいいという健康食品は効きますか?

世の中に出回っている関節に効くという健康食品は、ほとんど効果はありません。「プラセボ」という言葉を知っているでしょうか?薬の形をしているけど、中身は何も入ってない砂糖や小麦粉です。「プラセボ」を内服して効果が出る場合、これを「プラセボ効果」と言います。「関節痛」というものは「痛み」という主観的なものですので、この「プラセボ効果」はかなり出やすいと言われています。例えば、「血圧が下がる」とか「がんが小さくなる」とかはまだ、数値化できますので、客観性があります。一方「痛みがよくなった」というのはどうしても数値化が難しくなります。
関節リウマチの治療薬として病院で使用されているものは「無作為割り付け二重盲検試験」という治験を経ていることが多いです。逆に、新しい薬剤はこの「治験」で有効性が認められない限り「薬」とは言えません。「二重盲検」とは、「本物のくすり」と「プラセボ」を準備して、どちらも見た目はそっくりにしておきます。そして、投薬する医者も、投薬を受ける患者も、どちらの薬を飲んでいるのか全く分からない状態で治療を受けてもらいます。どちらを投薬しているか知っているのは治験をコーディネートしている人や企業のみです。そして、治療の効果をデータとするわけです。興味深いことに、関節リウマチの治験では「プラセボ」で有効な患者が出てきます。「プラセボ」で30%の人に効果があり、「本物の薬」で60%の人に効果があった場合、統計学の計算をして、理論上差がある、とされれば、この「本物の薬」は治療薬として認定されるわけです。
この「治験」という仕事にはたくさんのお金、人、時間が必要になります。しかし、科学的に有効な薬を生み出すにはこうした作業が欠かせません。今現在も、新しい関節リウマチの薬の「治験」が行われています。「治験」を通過して、ようやく関節リウマチの方へ、「本物の薬」が届けられるわけです。
ほとんどの健康食品はこの「治験」という作業を通過していません。ですから「科学的に」有効性が示されていません。(もしくは「治験」をやったことがあるのかもしれませんが、「プラセボ」と差が無く、薬になれなかったのかもしれません。)このような健康食品は非常に巧妙に、まるで科学的に証明されているかのように宣伝されている場合もあり、注意が必要です。白衣を着た怪しげな研究員がもっともらしく説明していたり、お金をもらったどこかのお医者さんが推奨したりしています。以前見た広告には「1年以上この食品を続けている方にアンケートをとったところ、90%以上の方が「効果がある」と回答しました!」などと書いてありました。効果があると思っている人しかこんなに高い食品を1年も続けないし、効果が無かった人は1年も飲まないからこのアンケートに答えてないよ、と冷静に突っ込みを入れたらいいのですが、このような巧妙な宣伝文句にぜひ騙されないようにしていただきたいと思います。
以前、私が経験したお話をします。関節リウマチで治療中の患者様がおり、安定しておりましたが、ある時、血液検査で肝障害を認めました。お酒も飲まないし、薬も変えていないのに、なぜかと不思議に思い、最近変わったことがないか聞いたところ、「○○」という商品を息子さんからプレゼントされて飲んでいたというのです。「○○」のホームページを見ると、「優しい息子さんが関節リウマチのお母さんに「○○」を買って「母の日」にプレゼントしました」と体験談に書いてあったのでびっくりしました。病気を心配する家族を標的にする、というのも如何なものかと思います。この患者の場合、効果は不明であるばかりか、「肝障害」が出ておりますから直ちに中止してもらいました。まさに「百害あって一利なし」です。こんな高い商品を買うくらいならレストランで美味しいものを楽しく食べたほうがよっぽどいいのに、と思います。

インフルエンザや肺炎球菌の予防接種は受けた方がいいですか?

インフルエンザの予防接種はぜひ受けてください。特に高齢の場合、インフルエンザを契機に他の肺炎にかかって重症化するような事例もあります。インフルエンザは予防することが重要です。関節リウマチで生物学的製剤を使用しているから、免疫が弱くてワクチンの意味がない、という意見もあります。生物学的製剤を投与中の関節リウマチ患者を対象としたインフルエンザ予防接種の有用性を検討した研究では、健常者と比較して、抗インフルエンザウイルス抗体の出現率に差はなく、副作用についても健常者と差はありませんでした。このような研究結果を考えますと、関節リウマチ治療中の方でもインフルエンザワクチンのメリットはあると考えられます。卵アレルギーやワクチンで有害事象がでたことがない限り、インフルエンザや肺炎球菌の予防接種は行ったほういいでしょう。
肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンは、不活性化ワクチンのため、関節リウマチで治療中の方も問題なく使用できます。近年発売された新しい帯状疱疹ワクチン(シングリックス®)も不活性化ワクチンのため、関節リウマチ患者でも使用できます。(逆に、以前からある水ぼうそう・帯状疱疹のワクチンは生ワクチンなので使用できません。)
はしか、風疹、BCG、水ぼうそう、おたふくかぜ、などのワクチンは、生ワクチンであり、メトトレキサートや生物学的製剤などの免疫抑制治療を受けているときは使用できません。もしもワクチン接種をうけていいかわからない場合は医師にご相談ください。

食べるもので気を付けるものはありますか?

関節リウマチやそのほかの膠原病、自己免疫疾患の原因は、まだよくわかっていません。原因がわからないので、食事の影響についても全くわかっていません。もしもある特定の食品が原因になるのであれば、その食品を中止すればいいのですが、そういった特定の食品は見つかっていません。ということで、関節リウマチ患者には特に食事制限は行いません。お好きなものをお食べください。炎症状態が続いて、タンパク質やアルブミンが低下して筋力が衰えて痩せる傾向がある場合は、良質のたんぱく質の摂取を意識してください。一般的に関節リウマチでやせ気味の方は骨粗しょう症が多いので、カルシウムやビタミンDの摂取も心掛けると良いでしょう。特に禁止すべき食品はありません。体重が急に増えますと、膝や足首などの関節に影響が出ますので太りすぎには注意してください。
ステロイドを服用中の患者様は、肥満、糖尿病、コレステロール上昇などが起こりやすいので、特に脂肪分の多い食事には注意してください。メソトレキセートを服用中の患者様は「葉酸」が多く含まれる青汁や海藻、サプリメントなどを大量に摂取すると、薬剤の効果が弱くなる可能性があるため注意が必要です。
「関節リウマチがよくなる」という食品はありません。プラセボ効果を巧みに利用したものがほとんどですので、そういった怪しい食品に手を出すことはやめましょう。食事療法・食事制限も度が過ぎますとストレスにつながります。ストレスをためないように、楽しく食事をとっていただければと思います。

飛行機に乗っても大丈夫ですか?

関節リウマチの患者様が飛行機に乗っても問題はありません。飛行中は機内の気圧が若干低下しますので、すこしむくんだような感じになり、関節に違和感をおぼえる方はいらっしゃいます。しかし飛行機の搭乗で関節リウマチが増悪するといった報告は見当たりませんので、問題はないと言っていいでしょう。以前、ご高齢でしたが趣味が「海外旅行」という元気な女性がいらっしゃいました。関節リウマチを患っていましたが、治療によって非常に安定しておりましたので、旅行も許可しておりました。飛行機がつらいといったお話は一度も聞いたことがありません。(旅行の楽しさのほうが何倍も強いので、気にならないだけかもしれませんが。)基本的に、関節リウマチになっても病気が落ち着いていれば海外旅行は可能です。長期間の旅行の場合、投薬が問題になることもあります。特に自己注射などを行っている場合、注射の持ち込みに際し、税関を通る際に英語の診断書、説明書などが必要になることもあります。投与間隔の長い注射に変更する場合もあります。通常、1,2週間の海外旅行が多いと思いますので、問題はありません。病気が不安定な場合は海外旅行をすこし控えたほうがいい場合もあります。また、発展途上国など感染症(マラリア、コレラ、チフスなど)の流行地域へ行くことは、免疫抑制治療を行っているという観点から、あまりお勧めいたしません。どうしても行きたい場合、ワクチン接種など事前準備が必要になることもあります。個別にご相談いただければと思います。

温泉に行っても大丈夫ですか?

温泉が趣味という方がいらっしゃいます。ストレス軽減やリラックス効果などがありますし、古くから病気の療養に使われてきました。自然の中で入る露天風呂は本当に気持ちいいですよね。
いわゆる公衆浴場と呼ばれる温泉、銭湯などには国の衛生基準が定められていますので、関節リウマチの免疫抑制治療を受けていても、入浴することは問題ありません。公共の温水プールも同様の理由で問題はありません。ごくまれに温泉のレジオネラ肺炎がニュースになることがあります。この菌は通常の環境に存在し、空調機、循環式のお湯などにも存在します。レジオネラは健常者でも罹患しますので、レジオネラを避けるために関節リウマチ患者の温泉を禁止する、というのはあまり合理的な判断ではないと思います。(交通事故にあわないように車に乗らないようにする、に似ています。)公衆浴場は、衛生基準を満たしているか定期的に検査されています。もしも不安であれば、検査を受けているか、検査証を確認すればよいと思います。安全面に配慮されている公共の温泉であればレジオネラに感染する確率は低いと考えられます。

将来看護師さんになりたいのですが、関節リウマチがあると難しいのでしょうか?

中学生や高校生など若い人に関節リウマチによく似た病気が出てくることがあります。若年性関節リウマチ、もしくは、若年性特発性関節炎 ( JIA )と呼ばれますが、生物学的製剤のトシリズマブで良好にコントロールされる患者様が増えています。関節リウマチと違って、国の特定難病に含まれます。
看護師さんの仕事はたしかに肉体労働ですし、身体的な負担は他の仕事に比べて強い可能性があります。しかし、私の外来にも関節リウマチやJIAを患っている看護師さんや歯医者さん、お医者さんがいらっしゃいます。皆さん治療を受けながらしっかりとお仕事をされています。30年前であれば、難しい選択だったかもしれませんが、現在は薬剤が良くなってきていますので、医療関係のお仕事であっても決して職業選択をあきらめる必要はないと思います。「マラソン選手になりたい、」と言われてしまうと少し答えに窮してしまいますが、よほどの重労働でない限り、ほとんどのお仕事は、関節リウマチであっても可能です。
若い方が関節リウマチを発症すると、関節が痛く腫れていて、できることが少なくなっていろいろとネガティブな考え方が出てくると思います。しかし、昔に比べて、治療がよくなっていますから、また元の生活に戻れる確率はずっと高くなっています。だから発症直後の段階で人生における重大な決断は絶対にしないでください。慌てて仕事や学校を辞めたり、婚約を解消したり、趣味を諦めたり、地元に引っ越したり、など重大な決断はしないでください。決断を先送りできるものは、できるだけ先送りしてください。半年後、1年後に状態が落ち着いている可能性が高いので、その時にゆっくりと決断してください。「今の仕事はとても気に入っているがリウマチになったのでもう辞めようかと思います。」と言われても「もう少し待ちましょう」とお答えしています。そのうち、関節炎がよくなって、「仕事は続けられそうです」と変化することが多いです。休業手当や休業補償などの制度もありますので、上手に活用しましょう。関節リウマチのせいで失職した、というのは何としても避けたいと思っております。最適、最善の治療を行って、今の仕事が続けられるように最大限のお手伝いをさせていただきたいと思います。