関節リウマチの飲み薬

メトトレキサート(MTX)(リウマトレックス®、メトレート®など)

関節リウマチの治療において最も基本となる重要な薬です。海外では「アンカードラッグ」(アンカー=錨)と呼ばれ、治療の中心的役割をはたす、もっとも重要な薬、ということになります。この薬剤が臨床で使われるようになって20年が経過し、関節リウマチの診療は大きく変わったといわれます。継続率が高く他の薬剤に見られるようなエスケープ現象が少ないこと、骨破壊が進行する患者の破壊抑制効果が認められること(他のページで紹介する生物製剤やJAK阻害薬以外に、骨破壊抑制を示したのはこのMTXのみです。)、他の抗リウマチ薬や生物学的製剤との併用で高い有効性を示すことが世界中から報告されています。

関節リウマチの治療には学会が示したガイドラインというものがあります。「ガイドライン」は標準的かつ科学的に証明された有効な治療法を中心に、薬剤選択の根拠とともに示された、関節リウマチ治療の教科書と呼ぶべき存在です。我々リウマチ専門医はこういったガイドラインを参照しながら、それぞれの患者様に適切な薬剤を、患者様の病状に合わせて選択して、患者様とよく相談したうえで治療薬を決定します。アメリカ、ヨーロッパ、日本からガイドラインが発行されていますが、どのガイドラインを見ても、関節リウマチ患者において、MTXは使用できない特別な理由がない場合を除いて、第一選択の薬剤となっております。MTXが使用できない患者様として、妊婦・授乳婦、骨髄抑制、慢性肝疾患、腎障害、活動性結核、本剤への過敏症の既往、胸水・腹水を有する方が挙げられます。MTXを投与する前にスクリーニング検査(採血、レントゲン撮影)を行うことは非常に大切です。このような検査を行って、問題がないことを確認してから治療を開始します。

1週間に8mg(4カプセル)から内服開始することが多いです。最大で週に16㎎(8カプセル)までが保険で定められた用量となります。内服方法に特徴があり、毎週決められた曜日に1~2回(場合によっては3回)に分けて内服します。間違っても毎日服用してはいけません。副作用を予防するために葉酸(商品名:フォリアミン®)5mg~20mg程度をメトトレキサート最終内服の翌々日に週1回内服します。例えば、水曜日にMTXを内服した場合、葉酸は金曜日に服用します。葉酸を含むサプリメントや青汁などの健康食品を使用している患者さんはメトトレキサートの効きが弱まることがありますので、そのようなサプリメントは中止したほうが良いです。もしくは葉酸の含まれていないサプリメントに変更してください。

もしも、MTXを飲み忘れてしまった場合、翌日や翌々日であれば内服しても構いません。その場合、葉酸はそのさらに2日後に服用してください。翌週からはもとの曜日に戻してもらって構いません。後述しますが、内服した日に嘔気や倦怠感が出る人がいます。仕事をしている日に避ける都合で、週末に飲んだ方がいいという方もいらっしゃいます。どの曜日に内服するかは患者さんのご都合で変わりますので、医師と相談の上で適切な曜日に服用してください。

効果の実感は早い人は2週間程度、ほとんどの場合4~8週間で認められます。内服したその日に効くような即効性の薬剤ではありませんので、最初は心配になる患者様もいらっしゃいますが、徐々に効果が出てくると信じて、決められた曜日に服用を続けてください。効果が弱い場合は副作用の出方を確認しながら、徐々に用量を増やしていきます。用量が増えることで関節症状がよくなることも多く経験されます。

初めて関節リウマチの治療を開始した患者のうち、半分かそれ以上の患者様はこのMTXだけで十分なコントロールが得られることが多いです。このMTXを使用しているのにも関わらず、十分な活動性のコントロールができない場合、後述する生物製剤やJAK阻害薬を追加することになります。もしもMTXが非常に効いて、全く関節症状が無く、半年から1年程度経過した場合には減量も考慮されますが、再燃した場合に以前の用量よりも大量のMTXが必要になるケースもありますので、慎重に減量や中止の判断が必要です。間違っても、ご自身で勝手に中止したり、減量したりしないようにしてください。どうしても飲みづらい場合や続けられないと思った場合は医師にご相談ください。他の薬剤に変更できないか、検討いたします。

MTXには様々な副作用が報告されております。副作用をゼロにすることは難しいですが、もしも起こってしまった場合には適切にこちらで対応します。軽症のものであれば対策を取りながら継続する場合もありますし、重度のものであれば中止になります。MTXの量を増やすと頻度・程度の増すもの(用量依存性の副作用)と、量に関係なく発生する可能性のあるものがあります。前者には、口内炎、嘔気などの消化器症状、肝酵素上昇、脱毛、骨髄(造血)障害、日和見感染症があります。こういった副作用は減量のみで改善することが多いです。また後者には間質性肺炎などがあります。

頻度は低いですが重篤な副作用として骨髄障害や間質性肺炎、リンパ増殖性疾患、B型肝炎の再活性化、結核が挙げられます。これらは急速に増悪し致命的になる場合もあるため注意が必要です。B型肝炎や結核はスクリーニングの段階でリスクが無いか、確認することで多くの場合防ぐことができます。咳や息切れなどの症状が続く場合は間質性肺炎の可能性がありますので、早めに医療機関に受診することをお勧めします。

またリンパ増殖性疾患は頻度こそ非常に低いですが、MTX内服患者に診られる悪性リンパ腫の一種です。MTX中止のみで回復する症例と、中止しても回復せず、抗ガン剤治療が必要になるケースがあります。いずれにしても入院加療が必要になります。発熱、リンパ節の腫れや難治性の口腔潰瘍、皮膚潰瘍などがあった場合、この疾患を疑うことになります。もしもこういった症状があれば早めにご相談ください。

サラゾスルファピリジン(SASP)(商品名:アザルフィジンEN®など)

副作用や合併症などがあって、上述のMTXが使用できない患者様の場合、次に使うべき第二の選択薬となります。(他、ヨーロッパのガイドラインによりますと、レフルノミドの使用の可能性がありますが、日本においては副作用の間質性肺炎の問題があり、一般的な選択肢となっておりません。)SASPは比較的早期で軽症~中等症の患者さんに有用性があります。250~500mgを朝夕食後2回(計500~1000mg)投与します。(海外では3,000mgまで使用されることもあります。)効果発現は1~2ヶ月程度です。MTXに比較すると効果は劣る印象がありますが、比較的長期間、安全に使いやすい薬剤として、汎用されています。

副作用は軽微なものも含めると20-30%の患者さんに出現し、開始してから1ヶ月以内に生じることが多いです。皮疹、発熱が多く、肝機能障害、消化管障害、日光過敏症、血球減少症がみられることもあります。サリチル酸が含まれるため、気管支喘息をお持ちの方や、抗生剤アレルギーの既往のある方には注意が必要です。

ブシラミン(BUC)(商品名:リマチル®)

BUCは我が国で開発された抗リウマチ薬であり、世界的にはあまり使用されていない薬剤です。SASPと同様、軽症~中等症の患者さんに有効性が期待されています。1日50~100mgから開始し、最大300mgまで増量可能です。通常は1日100~200mgで服用することが多いです。効果発現は1~2か月です。
発現頻度の高い副作用としては消化器症状や口内炎、味覚異常、皮疹、爪の変色(黄色など)があります。他にも、肝機能障害、間質性肺炎、腎障害などがあります。特に注意しなければならない

副作用は長期間服用の場合に多く見られる腎障害(蛋白尿、ネフローゼ症候群)です。蛋白尿が出現した際には速やかに薬剤を中止する必要があります。中止すれば多くの場合、腎機能は速やかに改善します。BUCを服用する場合は、定期的な尿検査を行うことが必要となります。

タクロリムス(TAC)(商品名:プログラフ®)

我が国で開発された免疫抑制薬です。筑波山の土壌にすむ放線菌から発見されました。主に、臓器移植を受けた患者さんの拒絶反応を抑える目的で開発され、使用されてきました。2005年に関節リウマチへの使用が認められ、他にも膠原病のループス腎炎や筋炎に合併する間質性肺炎などに使用されています。安全に使用するため、血中の濃度測定が保険適応になっている数少ない薬剤の一つです。血中濃度を測定する場合、夕食後に内服し、日中の時間帯で血液測定を行います。この血中濃度(=トラフ値)が5~10 ng/mlであれば、副作用が少なく、効果が期待できる有効治療域とされております。タクロリムスは関節リウマチ患者様には1日3㎎まで認められていますので血中濃度を測定しながら個々の患者様の状態に合わせて投与量を調整します。

主な副作用は腎機能障害、耐糖能異常、消化管障害(下痢、嘔気、腹痛)、血圧上昇などです。TAC内服時には他の薬剤(シクロスポリン、ボセンタン、スピロノラクトン、トリアムテレンなど)との併用は禁忌であり、使用することができません。

ミゾリビン(MZB)(商品名:ブレディニン®)

わが国で開発された免疫抑制薬です。八丈島の土壌より単離された糸状菌から発見されました。MTXを使用できない患者さんでも使用することができます。1日3回に分けて服用する場合と1回にまとめて服用する場合があります。世界的にはあまり使用されておらず、MTXと比べると効果は弱いですが、比較的安全に使用できる薬剤と考えられています。

イグラチモド(IGU)(商品名:ケアラム®、商品名:コルベット®)

日本で開発された薬です。1日に25mgから開始し、4週間投与後に1日50mgに増量します。単独で上述のSASPと同等の有効性を示し、MTXの効果が不十分な場合に追加することで、併用効果が示されています。主な副作用は肝機能障害やリンパ球減少です。ワルファリンとの併用で重篤な出血をきたす可能性があるため、服用できません。

レフルノミド(LEF)(商品名:アラバ®)

MTXとほぼ同等の抗リウマチ作用があり、海外ではMTXの次に多く使用されている抗リウマチ薬です。副作用として下痢、皮疹、肝機能障害、高血圧症などがありますが、日本では薬剤性の重篤な間質性肺炎の報告があり、慎重に使用されるべき薬剤とされています。

これらの内服薬を使用中の患者様は、ほぼ全て、「生ワクチン」の投与は禁止されています。「生ワクチン」の代表的なワクチンはBCG、麻疹、風疹、水ぼうそう(水痘)、おたふく風邪、ロタウイルスなどで、小児に使うことが多いワクチンです。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンは不活化であり問題ありません。関節リウマチに対する薬剤は大半が免疫抑制のため「生ワクチン」が使用できなくなります。ワクチンを接種して大丈夫か心配な場合は医師や看護師に一度ご相談ください。