リウマチ・膠原病の血液検査

リウマチ・膠原病の血液検査について

血液検査関節リウマチや膠原病の診断や治療において、血液検査はとても重要です。膠原病や関節リウマチを疑った場合、レントゲンやエコーなどの画像検査に加えて、複数の血液検査を行うことで、診断するための重要な情報を得ることができます。関節リウマチは全身疾患ですので、一般的な内科の検査(貧血、肝臓、腎臓などの機能を調べるもの)を調べることも重要になりますが、それ以外にも、体の炎症の状態を調べたり、特定の自己抗体の有無を調べたり、リウマチ科特有の血液検査もあります。ここでは、リウマチ科の診断や治療において測定するいくつかの血液検査について解説したいと思います。

リウマチ因子RFと抗CCP抗体(ACPA)

リウマチ因子、抗CCP抗体は関節リウマチの患者様の多くが陽性となることから診断に用いる検査として汎用されています。関節リウマチ分類基準においても重要な項目に位置付けられています。

リウマチ因子はよく健康診断の項目に入っていることがあります。私は健康診断でリウマチ因子を測定することは、あまり意味がないのではないかと思っております。なぜなら、健康な方でリウマチ因子が陽性の方は想像以上に多くいらっしゃるため、これが陽性であったとしても関節リウマチである可能性はそれほど高くありません。「検査前確率」という言葉があります。検査の前に症状が無い場合、この検査前確率が低く、検査の精度はずっと低くなるということです。

健診においては関節炎の人はほとんどゼロです。よって検査前確率は低く、いくらリウマチ因子を測定しても本当の関節リウマチの人を発見するためには途方もない数のリウマチ因子を測定し続けるしかありません。人口の0.5-1.0%がリウマチを発症しますが、リウマチ因子陽性確率は人口の5%以上とも言われています。陽性的中率があまりに低いので、健診で使うには効率が悪すぎます。やはり、関節痛、関節炎が存在する人にこの「リウマチ因子」検査を行うことに意味がある、と考えられます。

健康診断でリウマチ因子が陽性になり、意気消沈する人もいらっしゃいますが、関節リウマチになる確率がすこし高まった程度であり、関節症状が無いのであれば通常、問題にすることはありません。また、リウマチ因子陽性ということだけで定期的な通院検査は必要ありません。最近はリウマチ因子が陰性の関節リウマチ患者が増えてきています。原因は不明ですが、関節リウマチの陽性、陰性に頼らずに、症状や画像的検査を組み合わせた診断が重要になってきていると感じています。血液検査に頼りすぎることなく、総合的な判断ができるリウマチ専門医のもとで診断をうけていただきたいと思います。

抗CCP抗体はシトルリン化したたんぱく質に対する抗体です。関節リウマチでこの抗体が陽性の人が多く、診断における重要な特異的自己抗体と考えられています。(最近はシトルリン化以外の修飾も重要と考えられるようになり、シトルリンという言葉は今後変わるかもしれません。)抗CCP抗体はリウマチ因子よりも診断の精度が高いとされています。また、抗体価が非常に高い患者の場合、関節破壊が急速に進行する傾向があることが知られていますので、高値の患者様の場合は十分な治療を行うよう、意識する必要があります。関節リウマチの患者の10~20%はこの抗体が陰性であるため、これらが陰性だからと言って関節リウマチを完全に否定することはできません。ただし、上述のリウマチ因子よりは特異性が高いため、診断においては有用な検査といえます。これらの抗体が陰性で関節症状がある場合、他の疾患の可能性なども考慮しつつ、関節のレントゲンや関節エコーなどを組み合わせて診断します。

健康診断でCCP抗体を測定する可能性は低いと思いますが、無症状の人にこのCCP抗体陽性を認めた場合、数年後に関節リウマチを発症する研究もありますので、リウマチ因子よりすこし関節症状について意識したほうがいいかもしれません。(もちろん、陽性でもまったくリウマチを発症しない方もいらっしゃいます。)

抗核抗体

若い女性に関節症状がある場合、関節リウマチ以外の病気も考える必要があります。特に「全身性エリテマトーデス(SLE)」などの膠原病は重要になります。このSLEなどを含めた膠原病の診断に重要な検査がこの抗核抗体検査です。SLEなどの膠原病の患者様の多くはこの抗核抗体が陽性となります。抗核抗体は希釈倍率で示される検査になりますので、他の検査と違って、40倍、80倍、160倍、などの数値で示されます。40倍以上は陽性と判定されますが、健康な人でも40倍の陽性者はいらっしゃいます。また年齢とともに抗核抗体の陽性率は上昇します。上述のリウマチ因子と同様、健康な人の陽性率が高いことから、陽性であることがイコール膠原病とならないことに注意が必要です。

健康診断や人間ドックでこの検査が入っていることがありますが、これもリウマチ因子と同様、あまり有用な検査とは考えにくく、特に高齢の方の場合、膠原病の無い人でも陽性となりやすいので、無症状であればほとんど気にする必要はないと思います。抗核抗体が陽性になる病気にはSLEのほかに、シェーグレン症候群、強皮症、多発性筋炎・皮膚筋炎、混合性結合組織病などがあります。抗核抗体が陽性であり、かつ、関節症状や皮膚症状などの症状がある場合に、膠原病などを疑うことになります。

抗核抗体にはいくつかのタイプがあります。このタイプをみることである程度はどのような自己抗体があるが類推することができます。抗核抗体要請が判明した場合、もう一度採血を行って、特異的な自己抗体が出ていないか、検査する必要があります。具体的には抗DNA抗体、抗Sm抗体、抗RNP抗体などがあり、こうした特殊な抗体が検出されないか、調べることが重要となります。

抗DNA抗体

この抗体は全身性エリテマトーデス(SLE)の患者様に多く検出される抗体の一つです。二本鎖DNAに対する抗体と一本鎖DNAに対する抗体があり、SLE患者に検出される抗体は二本鎖DNA抗体であることが多いです。通常、ELISA検査と呼ばれる方法でこれらの抗体を検出しますが、この検査で時々非特異的反応がみられることがあり、病気とは無関係にこれらの抗体が陽性になることがあります。

こうした非特異的反応でないか、確認するために放射性免疫検出法(RIA法)と呼ばれる検査を追加で行うことがあります。SLEの診断にはこの抗体をはじめとして、いくつかの検査が必要であり、症状と検査の結果をもとに、総合的に診断することになります。

抗SS-A抗体、抗SS-B抗体

この抗体は主にシェーグレン症候群の患者に多く認められる抗体です。上述のSLEや関節リウマチの患者にも認められることがあります。シェーグレン症候群はドライアイやドライマウスを引き起こす膠原病の一つです。この抗体は自己抗体の一つですが、抗核抗体が陰性の場合でも陽性になることがあります。もしもドライアイやドライマウスを自覚している場合、これらの抗体を測定することがあります。この抗体が陽性でありかつ、ドライアイやドライマウスがある場合、シェーグレン症候群を強く疑うことになります。眼科や歯科、耳鼻科などの先生と協力して、診断をつけることになります。この抗体が陽性の方が妊娠した場合、赤ちゃんに不整脈などの症状が出ることがあります。産婦人科の医師にこれらの抗体が出ていることを事前にお伝えすることが重要です。

抗リン脂質抗体(抗CL抗体、抗β2GP1抗体、ループスアンチコアグラントなど)

後天的に血栓(血の固まり)ができやすくなったり、流産を繰り返したりする、抗リン脂質抗体症候群(APS)という病気があります。この抗体はこの患者に認められる抗体です。APS患者の半分はSLEをはじめとする膠原病を合併しています。診断にはサッポロクライテリアという分類基準を用います。産婦人科の不妊症外来で、流産を繰り返す女性に対して測定し、陽性が判明することがあります。

また、比較的若年にかかわらず、脳梗塞を起こしたり、深部静脈血栓症と呼ばれる下肢の静脈が詰まってしまう病気(長時間の飛行機に搭乗して発症したりするため、エコノミークラス症候群と呼ばれることもあります。)を起こす場合、この病気を疑って抗リン脂質抗体を測定することがあります。この抗体が陽性の場合、血栓症のリスクを検討して、必要に応じて血液をサラサラにする薬剤を内服します。

CRP、赤沈、MMP-3

CRPは関節リウマチや膠原病の診療において、もっとも測定される項目の一つです。特に関節リウマチの治療中の患者においては治療効果判定や感染症の可能性の有無、などに有用です。患者の状態にもよりますが、ほとんどのリウマチで通院する患者は定期的にCRPを測定することになります。CRPは関節炎の存在に鋭敏に反応します。一方で、変形性関節症(年齢などの影響で関節が変形して起こる関節症)では上昇しません。若い方はこのCRPがあまり上昇しない方がいらっしゃいますので、注意が必要です。高齢者では高値になる傾向があります。肥満症の方で軽度上昇することがあります。関節炎のみならず、肺炎、膵炎、腸炎など炎症の名の付くものは総じて上昇しますので、関節炎が無いのに上昇する場合は感染症の存在などに注意する必要があります。

赤沈は古くからある、炎症マーカーです。貧血やアルブミンの量などによって数値に影響が出やすいため、結果の解釈には注意が必要です。近年ではCRPが簡便に測定できるようになったため、汎用されなくなってきました。
マトリックスメタロプロテアーゼ3は関節炎のマーカーとして用いられる検査項目の一つです。関節の組織から分泌され、関節炎の程度を反映すると考えられています。注意点としてはステロイド内服で上昇してしまうこと、関節炎ではない、変形性関節症でも上昇するため、炎症状態を正確に反映できないこと、などです。MMP-3は保険で頻回に測定はできないため年に数回、必要な場合に限って測定します。炎症の程度を見るだけであればCRPで代用できますし、ステロイド内服中の方は高い値になりますので、ステロイド服用の患者様への測定はあまり有用と言えません。

クレアチンキナーゼ(CK)

体の筋肉由来の酵素です。筋肉には心筋という心臓の筋肉もありますので、狭心症、心筋梗塞でも上昇します。胸痛をともなってCK上昇があれば、すぐに救急搬送になります。そうでない場合は全身の筋肉由来であることが多いです。

膠原病においてはCKが上昇する疾患に多発性筋炎や皮膚筋炎という病気があります。これらは筋肉に炎症が起こる自己免疫疾患であり、疑わしい場合は大学病院などで精査が必要になります。CKは筋肉が壊されたときに上昇しますので病気以外の要因でも上昇します。例えば、筋力トレーニングや激しい運動した直後は上昇していることが多いです。また、筋肉注射を受けた後も上昇します。こむら返り、足がつる症状を繰り返している方、長期臥床して筋肉が挫滅した場合も上昇します。薬剤の影響で上昇する場合もあります。頻度が多いのはスタチン系のコレステロールの治療薬です。様々な要因で上昇しますので、この検査単独で病気の推定は困難であり、他の検査項目などを参照しながら病態を判断することが必要になります。

KL-6

関節リウマチ、多発性筋炎・皮膚筋炎、強皮症に間質性肺炎の合併が多く認められます。間質性肺炎には慢性に進行するタイプや急速に進行するタイプなど様々ですので、呼吸器専門医と連携して治療を行う必要があります。筋炎に合併する一部の急速進行型の間質性肺炎の場合、強力な治療が必要になりますのですぐに大学病院へ紹介します。この間質性肺炎の診断や治療マーカーとして重要な検査項目がKL-6になります。KL-6の値や呼吸機能検査、画像検査などを組み合わせて、現在の間質性肺炎の状態を把握します。頻度は低いですが、リウマチの治療薬で間質性肺炎が起こることがあります。この場合もKL-6の測定は有用です。薬剤性間質性肺炎は薬剤の中止のみで改善することもありますが、進行する場合は入院していただき、ステロイド治療が必要になることがあります。

T-spot検査

 これから生物製剤の治療を行う予定の患者様に受けていただく検査です。この検査は結核の既往の有無を調べる検査になります。

かつては「ツベルクリン反応」という検査を行っていましたが、これはBCG検査の影響を受けやすく、結核にかかったことの無い場合も要請になることがあり、診断の精度としてはあまり優れていませんでした。T-Spot検査ではBCGの影響をうけにくく、この検査が陽性の場合、実際に結核にかかったことがある、と見なされます。現在まったく無症状であっても、幼少期に感染して肺の一部に結核菌が存在する場合があります。(保菌状態といいます。)

この状態で生物学的製剤などの免疫抑制剤を使用すると、結核が再度活性化して、肺結核などを引き起こすことがあります。結核を保菌している可能性が高い場合、イソニアジドという抗結核薬を予防的に内服して、結核を起こさないように対策を行います。イソニアジドの内服は通常6か月から9か月行います。イソニアジドを開始して3週間してから生物学的製剤を開始します。結核を一度発症しますと隔離された病室での長期入院が必要になりますし、結核を他人に感染させる危険性もあります。安全な関節リウマチの治療を行うためにT-Spot検査、イソニアジドの予防内服などの結核対策はとても重要です。

HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体・HCV抗体

これらはB型ならびにC型肝炎ウイルスの感染について調べる検査です。B型肝炎ウイルスは感染が成立した状態であっても肝炎をおこさずに無症候のキャリアのことがあります。通常は抗体などの働きによって、肝炎が問題になることはありません。

関節リウマチで生物学的製剤などを使用しますと、肝炎ウイルスに対する免疫が低下し、無症候であったB型肝炎ウイルスが再活性化することがあります。重篤な場合、劇症肝炎といって、命にかかわるような状態になるケースもあります。関節リウマチの治療を開始する前にこれらのB型肝炎ならびにC型肝炎ウイルスチェックを行うことは非常に大切です。もしも感染が確認された場合、これらのウイルスが再活性化しないか、ウイルスDNA検査などによってモニタリングすることが推奨されています。そして、活性化が疑わしく、ウイルスが検出される状況では、抗ウイルス薬が必要になる場合があります。この場合は肝臓を専門とする医師に相談することになります。安全な関節リウマチ治療を行うために必ず必要な検査の一つと言えます。

β-D-グルカン

βDグルカンは真菌(いわゆるカビ)の感染症を発見する際に用いる検査です。体の中で真菌感染症が起こりますと、血液中にβDグルカンが検出されるようになります。関節リウマチにおける免疫抑制治療中に、ニューモシスチスイロベッチ肺炎(PCP)という特殊な肺炎がおこることがあります。これはHIV感染症などにおこる日和見感染症の一つです。

この肺炎にかかると、βDグルカンが上昇することがわかっており、肺炎が疑わしい場合に測定します。もしもPCPになった場合、すぐに入院治療が必要になります。PCPは早期発見早期治療が重要です。高齢者、ステロイド内服中、肺疾患の既往などのリスク因子がある場合は、PCPの予防目的にST合剤という抗生剤を服用することがあります。免疫抑制治療を安全に行うために必要な検査の一つと考えられます。