掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)・SAPHO症候群とは?

掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)とは?

掌蹠膿疱症手のひらや足の裏側に膿疱(小さい水・膿の入った袋状のもの、水ぶくれ)ができてくる病気です。この水の入った袋の中身は膿のように見えるのですが、無菌性であり、細菌やウイルスが直接この皮疹を作り出しているわけではありません。ということで、他の人が触っても感染することはありません。ただし、先行する感染症状が認められる場合もあり、感染症が何らかの誘因になっている可能性はあります。かゆみや痛みを伴うこともあり、出現と消退を繰り返して、慢性的に経過する症例もあります。角質が厚くなってはがしたくなることもありますが、はがした跡に感染症が起これば問題になりますので、無理やりはがすのはやめましょう。

皮膚だけの症状であれば、皮膚科で治療されることが多い疾患だと思います。この病気の問題点は、よく、関節症状を合併する、ということです。関節症状を伴った場合「掌蹠膿疱症性関節炎」といって、リウマチ科での治療が必要になる場合があります。また、掌蹠膿疱症性関節炎と重なる疾患概念としてSAPHO症候群があります。SAPHO症候群と掌蹠膿疱症性関節炎の厳密な区別は難しく、ここではSAPHO症候群について説明をさせていただきます。

SAPHO症候群

1961年に米国から「集簇性ざ瘡と関節炎」、1967年に日本から「掌蹠膿疱症を伴った両側鎖骨骨髄炎の症例」と報告されました。1987年にフランスのChamotらが85症例を検討して"SAPHO"と名付けられた疾患です。
"SAPHO"とはSynovitis(滑膜炎)、Acne(ざ瘡、にきび)、Pustulosis(膿疱症)、Hyperostosis(骨化過剰症)、Osteitis(骨炎)の頭文字を取り命名されました。関節リウマチで認められるような手足の関節炎の他に、胸鎖関節(胸の前方にある骨と両方の鎖骨の間にある関節)が痛み、腫れてくることが多いです。レントゲンで胸鎖関節の異常な骨化(骨が多く形成されること)を認めます。また、背骨(脊椎)や座骨(仙腸関節)などの関節炎を認めることもあり、脊椎関節炎(SpA)との鑑別が必要になる場合もあります。HLA-B27という遺伝子が13-30%程度陽性と言われていますが、日本人でどうなっているのかについてはよくわかっていません。炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)とも関連することがあります。皮膚症状は掌蹠膿疱症、ざ瘡、乾癬が多く、特に掌蹠膿疱症に合併したものは掌蹠膿疱症性関節炎と称する場合もあります。

世界的には0.04%程度の発症頻度であり、稀な疾患です。日本人での発症率は不明です。やや女性に多いという報告もありますが、ほぼ性差はなしで、30-50歳台に多いです。皮膚や関節の症状は出現したり、消えたりを繰り返します。皮膚炎と関節炎が両方一緒に出てくるケースが多い一方、どちらか片方のみ出現してしばらくしてから症状がそろう場合もあります。原因は未だ不明で、確立された治療法はまだありません。長期的な予後(病気の見通し)は良好とされています。

症状

最も頻度が高い症状は、胸の前方、前胸壁(胸鎖関節・胸骨柄結合部)の痛みです。他には背骨(脊椎)、手足の関節、座骨の痛み(仙腸関節の痛み)がでます。出現したり、消えたりを繰り返すという特徴があります。
発症には3タイプあり関節炎先行型32%、皮膚症状先行型39%、同時発症型29%とほぼ同じくらいの頻度です。胸鎖関節や胸骨周囲の炎症は65-90%程度あり、SAPHOの特徴的所見です。
皮膚症状は80%を超える症例でみられ、掌蹠膿疱症、尋常性乾癬、ざ瘡(にきび)があります。それぞれ、掌蹠膿疱症が30%、尋常性乾癬 10%、重症ざ瘡 20%、掌蹠膿疱症と乾癬の合併が20%程度とされ、3者を合併する方も10%弱存在します。15%前後は長期間フォローしても、皮膚病変が出てこないとされます。

診断

胸鎖関節の痛みや腫れがあり、他の臨床症状や、レントゲン・CT・MRI・骨シンチグラフィーなどの画像検査で骨関節炎の証明をします。必要あれば骨病変の生検による他疾患の除外を行い総合的に判断して診断します。

治療

非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)・抗リウマチ薬

痛みをとるためにまずNSAIDSを使用しますが、一部ではNSAIDSのみで軽快することもあります。メトトレキサート、サラゾスルファピリジン等の抗リウマチ薬は一部の患者さんに効果があったとの報告があります。抗リウマチ薬は関節リウマチの使用法に準じて用います。

生物学的製剤

NSAIDs、抗リウマチ薬などで治療効果の見られなかった患者さんに対し、生物学的製剤を使用する場合があります。乾癬のページに記載した、「グセルクマブ(トレムフィア®)」は掌蹠膿疱症に保険適応があります。高額な薬剤になりますので、適応については慎重に判断する必要があります。また脊椎関節炎や関節リウマチで多用されているTNF阻害剤が用いられることもあります。これらの生物学的製剤の使用によって、骨関節病変と皮膚病変双方に対して、治療効果が期待されます。

抗菌薬・歯科治療

SAPHO症候群を起こす機序の1つとしてCorynebacterium, P.acnesの慢性感染に対する 免疫反応の可能性が示唆されており、ドキシサイクリン、アジスロマイシン、クリンダマイシン等の抗菌薬が一部の患者さんに効果があったとの報告があります。また、扁桃摘出術が有用であったとする報告もあり、扁桃腺炎を繰り返す症例の場合には検討されます。ひどい虫歯、歯周病があった方が、歯科治療をしっかり受けていただいたところ、掌蹠膿疱症が改善したという報告もあります。歯の状態が良くない場合には歯科でしっかりとしたケアを受けてもらうと良いと思います。また、歯に詰めている金属を除去したり、別の素材に変更したりすることで病気が良くなるケースも報告されています。