関節リウマチの寛解に至る治療法

寛解とは

よく「関節リウマチは治りますか?」という質問をよく受けます。この質問に対する答えはそれほど簡単ではありません。まず、「治る」という言葉の意味がいろいろとあります。たとえば、交通事故で足を骨折して、手術して、リハビリを続けて、後遺症無く、元通りの生活にもどれば、「治った」といえるかもしれません。胃がんがあって、胃を切除して術後に抗がん剤治療を受けたとします。手術して癌を取り除いたところである人は「治った」と思うかもしれませんし、術後に抗がん剤治療をうけているので「治った」とは思えない人もいるかもしれません。高血圧で血圧の薬を飲んでいて、血圧が正常になっている人の場合、ある人は「高血圧が治った」といいますし、いや、降圧薬が無い状態で血圧正常じゃないと、治ったとは言えない、という人もいます。「治る」という言葉を考えると大きく2種類考えられます。(A)病気が体から完全に無くなった状態。(B)薬を使いながら病気自体がほとんど体から無くなっているような状態。(A)は「完治する」とか「根治する」という言葉で言い換えられます。また(B)は「寛解」という言葉で置き換えられます。

上記の質問ですが、質問者の意図が(A)の「完治」「根治」に近い場合、残念ながら、現在の医療ではそこまで進歩していないということになります。関節リウマチはまだ完全に原因がわかっていない病気であり、原因を抑えるような治療法は開発されていません。もしも原因を除去できるような治療が生み出されれば、一回投与するだけで病気が消失するような、夢のある薬剤が登場すると思います。30年前に比べれば、関節リウマチに新規薬剤が登場し、リウマチの治療は格段に進歩しましたが、「根治する」というレベルにはまだ到達していません。もちろん、一部の人に新規薬剤が著効して、薬をやめられたケースもあります。ただし、一部の関節リウマチでは自然治癒する人も小数ですが存在しますので、もしかしたら、たまたまそういった、勝手によくなる患者様だったのかもしれません。誰にもわかりません。

質問者の意図が(B)の「寛解」であれば、これは多くの場合、YES、と言う事できます。治療薬の進歩により、治療を受けながら、全く病気の存在を意識しない、痛みの全くない、病気の進行が認められない、生活の支障が全くなく、好きな趣味やスポーツ、仕事ができる、こういった状態に持っていくことは十分に実現できることが多くなってきました。もちろん、100%とはいいがたいのも理解しています。当然、全ての患者様がハッピーに暮らせるようにしたいと思っていますが、100%有効な薬剤、というものは存在せず、いくつか薬剤を試したものの、なかなか「寛解状態」にならない患者様も、残念ながら一定数存在します。それでも、少しでもいい薬剤が無いか、調整することは大事かと思います。ひと昔前であれば、関節リウマチ患者にとって「寛解」という言葉は夢のような話でした。ただし、現在は「寛解」が実現可能な目標(ターゲット)として設定されています。

2009年、オーストリアのリウマチ学の権威であるジョセフ・スモーレン教授が「Treat to Target(T2T)戦略」を提唱しました。これは治療目標を設定して、その目標に向かって治療せよ、という戦略です。そして、この治療目標は「寛解を達成すること」と定義されました。2010年に論文化され、世界中でこのTreat to Targetの考え方が広まることになりました。わが国でもこの戦略が翻訳され、実臨床でこのT2Tを実践するようになりました。T2T戦略は、生物製剤の登場が大きな転機になったと思われます。もしも生物学的製剤が無かったら、このT2T戦略は絵に描いた餅に終わった可能性があります。有効な薬剤の登場によって「寛解」達成は夢ではなく、実現可能性の高い未来、ということになりました。残念ながら、全ての人が「寛解」に達成するわけではありません。しかし、少しでも寛解に近い状態に持っていくことも重要であり、無治療でいるよりもずっと有用です。治療をうけながら、周りの人に「リウマチは治ったの?」と聞かれるような状態にすることが目標です。私どももこの状態になるようにお手伝いができればと思っております。

3種類の寛解

寛解には「臨床的寛解」「構造的寛解」「機能的寛解」の3種類があります。まず初めの目標は「臨床的寛解」であり、その後、「構造的寛解」「機能的寛解」を目指すことになります。

「臨床的寛解」

手足の関節の痛みや腫れが無く、関節の炎症が無くなっている状態。医師の診察や採血CRPなどを組み合わせて評価します。

「構造的寛解」

新規に骨の破壊を認めず、関節破壊の進行が止められている状態。X線などで評価します。

「機能的寛解」

基本的な生活動作が支障なく行える状態。さらに社会的活動(仕事)なども問題なく行えて、心理状態も問題がないような状態。HAQテストなどのアンケートで評価します。

ドラッグフリー寛解

上述の通り、「寛解」は薬剤の治療を受けながらほとんど病気がなくなったような状態のことを言います。長い期間、「寛解」を維持できている場合には、薬を休止できるかどうか、トライすることになります。もしも休薬の状態で寛解が維持できていれば「ドラッグフリー寛解」という事になります。この状態はすべての患者様が求めている状態と言っていいでしょう。

誰しも、薬なしで快適に過ごせるのであれば、その状態になりたいと思うものです。私の経験上、この状態に到達する人は残念ながらごく少数です。発症のかなり早期から生物製剤を含む強力な治療を行った場合に、この状態に達する人がいるかもしれません。発症から5年、10年たった状態からドラッグフリーにもっていくことは通常困難と思われます。「寛解」の患者様の薬剤を減量したり、投与する間隔をひろげたり(月1回の薬を2月に1回にするなど)することはよくあります。この薬剤の「減量」は十分に可能な方法だと思いますが、「休止」はとても難しいです。「休止」して2,3か月後、関節炎が出現して大変な思いをする方もいらっしゃいます。「寛解」から「減薬」、その後「休薬」と進みますが、「休薬」のハードルは高いです。

患者様の中には「寛解」達成後、ご自身の判断で薬を止めてしまう方がいらっしゃいますが、これはあまりお勧めできません。再発した場合に、それまで良く効いていた薬剤が効かなくなることもあります。また、「オンデマンド治療」と言って、痛くなった時、痛くなりそうな時だけ治療薬を服用するような人もいますが、これもあまり有用な治療と言えません。リウマチ治療薬は主治医の先生のよく相談して、量や間隔を調整する必要がありますので、ご自身の判断で薬を調整するのはお控えいただければと思います。

上述のT2T戦略に記載された内容は10年以上前のものですが、この中の基本的戦略は今読み直しても全く遜色ありません。「患者さんと医療者側の合意に基づいて治療を開始する」「なるべく早く臨床的寛解を達成しそれを維持する」「寛解に達しているかどうか少なくとも3ヶ月毎に評価して、未達成であれば治療を見直す」「寛解に到達してからも、その状態を維持するために適切な治療を継続する」「常に患者さんと医療者側で目標を共有する」など、リウマチ治療を行っていくうえで重要なエッセンスが散りばめられています。こうした治療戦略を意識して、「寛解」という目標を達成するために、皆様とともに治療をすすめていければと考えております。