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骨粗しょう症(3)(骨粗しょう症・骨量減少と言われたら)

薬物治療をすぐにはじめるべきですか?

 骨量減少が確認されたとき、全員がすぐに薬物治療を始めるわけではありません。軽い骨量減少であれば生活指導で経過をみることもできます。薬物を開始するかどうかの基準は「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」に記載されています。

  ・大腿骨の股関節に近い部分や背骨の骨折がすでにある場合

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70%未満

これらの場合、薬物治療の対象になります。また、

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70から80%未満

この場合、脆弱性骨折の有無やリスク因子、家族歴などを聴取して薬物治療を開始するかどうか判定します。これらの基準は、関節リウマチ患者、ステロイド使用者、続発性骨粗鬆症患者(糖尿病や慢性腎不全なども含む)の場合には当てはまりませんので注意が必要です。

 関節リウマチ患者様やステロイドを服用している患者様の場合、健常者に比べて骨折リスクが高いことが知られています。このような患者様の場合、閉経前の女性であっても、基本的に全員に骨密度測定をお勧めし、必要に応じて、薬物治療をご提案いたします。

 

血液検査(骨代謝マーカー)のチェックも受けましょう

 骨密度測定検査(DXA)は骨粗しょう症の診断・治療の中心的な検査になります。他に、血液検査で骨粗鬆症の状態を判定することが可能です。現在保険で認められている骨代謝マーカーはいくつかありますが、大きく分けて3種類あります。

  ・骨吸収マーカー:TRACP-5b、NTXなど

  ・骨形成マーカー:P1NP、BAP

  ・骨マトリックス関連マーカー:ucOC

骨粗鬆症の早期の段階で骨吸収マーカーが高値の場合、骨吸収が亢進している可能性があり、骨吸収抑制薬の投与を決断する根拠となります。骨形成を促進するテリパラチド・ロモソズマブなどを使用しているときに、骨形成マーカーを測定することで治療効果を判定することが可能となります。骨マトリックス関連マーカーはビタミンK不足の有無の判断に活用できます。

これらのマーカーは頻回に測定することはできません。治療開始前に骨吸収マーカーと形成マーカーを測定し、骨粗鬆症の病態を確認することが多いです。治療開始後は治療効果判定のために吸収や形成マーカーを数か月の間隔をあけて再度測定することがあります。

 

薬物以外の生活指導

 骨粗鬆症の治療薬は種類も多く、近年は効果の高い薬剤も臨床で用いられるようになりました。骨粗鬆症の薬物治療は進歩していますが、すべての薬物治療の前提条件として、生活指導はかかせません。ここでは代表的かつ重要とされている(1)食事、(2)運動について説明いたします。

 

食事

・カルシウム

カルシウムの摂取は予防、治療に必要不可欠です。(必要条件ですが、十分条件ではありません。)また、カルシウムだけ過剰に摂取しても腸から吸収されるカルシウム量には限界があり、ビタミンDを摂取しないと吸収が上手くいかないこともわかっています。カルシウムだけでなく、必要な栄養素をバランスよくとることが重要です。骨粗鬆症治療では1日700から800mgのカルシウム摂取およびビタミンDの摂取が推奨されています。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良いとされます。(真っ黒に日焼けする必要はありません。)。

カルシウムは乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品などに多く含まれています。カルシウムサプリメントについてはよく問い合わせを受けます。ご年配の方が急激に大量のカルシウムとビタミンDを摂取し血中のカルシウムが急上昇することで健康被害が出るケースも考えられます。1回に服用する量が500㎎を超えないこと、通院中であれば定期的に血中のカルシウムやリンの濃度を測定すること、カルシウム濃度が高い場合は中止する、などの対策が考えられます。通院中の方はまず主治医にご相談していただくといいと思われます。

・ビタミンD

ビタミンDはカルシウムの吸収に重要です。ビタミンDは高齢者で不足状態になっていることがしばしば指摘されています。魚類、キノコ類に多く含まれており、これらをしっかりと摂取することが重要です。

・ビタミンK

ビタミンKも骨密度の維持に重要なビタミンです。納豆や緑色野菜に多く含まれています。もしもこれらの摂取が少ないことが予想される場合、または、血中ucOCを測定して高値の場合は、ビタミンKの多い食品の摂取をすすめます。(ワーファリンを内服中の方はビタミンKの過剰摂取はできませんのでご注意ください。)

 

運動

 これまで閉経後の女性を対象とした複数の研究がなされており、ウォーキング、有酸素運動(自転車、水泳など)、下肢の荷重運動・筋力トレーニングは大腿骨(太ももの骨)や腰椎(腰の背骨)の骨密度維持・上昇に有効であることが示されています(Howe TE et al. Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women.; Cochrane Database Syst Rev. 2011; 6; 7)。「骨粗鬆症対策に運動がよい」というのは科学的にしっかりと証明されており、生活指導の中でも最も重視するべきポイントと言えます。

運動というとジムの筋トレを思いつく人がいますが、いきなり負荷の強い運動を行うことはかえって逆効果です。まずは歩行から始めましょう。閉経後の女性(平均年齢65歳)を対象とした研究では、1日8,000歩、週4日以上を1年間継続すると骨密度が上昇したそうです(Yamazaki S et al. J Bone Miner Metab. 2004;22(5):500)。1日8000歩は今まで歩いていない人にとってはハードルが高いと思います。いきなりこのレベルで歩くのは難しいと思いますので、徐々に歩く距離を増やしていけばいいと思います。また、心臓や肺の疾患がある場合も主治医によく相談したうえで運動の強さを考えていただければと思います。

関節リウマチや膝の変形性関節症などがあって、思い通りに歩けないケースもあると思います。自転車や水泳は一般的に膝の状態がよくない人でも取り入れることが可能です。また、家庭でもゆっくりとしたスクワット運動(反動をつけないでください。)は筋力維持・転倒防止に有用です。できることから少しずつ生活に取り入れていきましょう。関節の病気をお持ちの場合は主治医とよく相談して、運動療法を生活に取り入れていただければと思います。