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骨粗しょう症の薬(前編)

 前編では骨粗しょう症治療でよく使われる内服薬として、ビタミンD3製剤、SERM、ビスホスホネートについて記載します。(ビスホスホネートは一部注射もあります。)後編では注射の骨粗しょう症製剤について解説します。

 

・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)

 ビタミンDは骨代謝における重要なビタミンであることはこれまでに申し上げてきました。これらのうち活性型といって、そのままの状態でビタミンD受容体と結合して作用を発揮するものを活性型ビタミンD製剤と言います。天然型ビタミンD(サプリメントや食事に含まれるもの)に比べて、活性型ビタミンDは骨折抑制効果にすぐれています。活性型ビタミンD3ではアルファカルシドールが汎用されていましたが、エルデカルシトールはより強力な骨量増加作用を目的として合成されました。エルデカルシトールは消化管からのカルシウム吸収促進作用に加えて、骨吸収を抑制する作用を示し、アルファカルシドールに比較して有意に骨量を増加させ、椎体骨折の抑制効果を示しました。活性型ビタミンD3製剤においては唯一、椎体骨折抑制でA評価となっています。副作用は血中Ca濃度の上昇や尿路結石があるため定期的な血中ならびに尿中Ca濃度の測定が必要です。

 

・SERM(ラロキシフェン・バゼドキシフェン)

 SERMはエストロゲン受容体に結合しますが、乳房や子宮に作用せず、骨や脂質代謝には作用するように組織選択的に効果を発揮する薬剤です。骨に対しては骨吸収抑制作用によって骨密度の上昇作用があり、椎体骨折予防効果も示すことから、ガイドラインにおける評価もAとなっています。このほかにも、骨質の改善作用や乳癌リスクの低下、脂質代謝(コレステロールなど)の改善効果があります。更年期症状には無効です。また、女性ホルモンの治療全般に言えることですが、血栓ができやすくなる副作用が懸念されており、頻度は低いですが、静脈血栓塞栓症の発症に注意が必要です。血栓症の素因がある「抗リン脂質抗体症候群」の患者や静脈系の血栓症既往がある人には投与できません。後述するビスホスホネートに比べると内服時間はいつでもよく、1日1回の飲み薬で、胃腸障害もほとんどありませんので、飲みやすい薬剤と言えます。

 

・ビスホスホネート

 骨粗しょう症治療の中で、最も汎用されている薬剤です。体内に入ったビスホスホネートはまず骨に分布し吸着します。骨に吸着したビスホスホネートはやがて破骨細胞に取り込まれます。ビスホスホネートを取り込んだ破骨細胞はアポトーシスと言って自ら死滅していきます。この働きによって、骨吸収ができなくなり、骨密度が上昇する、という薬理作用となっています。日本で骨粗しょう症に使用できるビスホスホネートは内服または注射が5種類、注射のみが1種類あります。第一世代:エチドロネート、第二世代:アレンドロネート、イバンドロネート、第三世代:リセドロネート、ミノドロネート、ゾレドロネート(注射のみ)。エチドロネートは最近処方される頻度は減ってきましたので、第二世代以降が主に使用されています。ガイドラインにおいて、骨密度上昇・椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位部骨折の抑制効果についてすべてA評価になったのが、アレンドロネートとリセドロネートの2種類です。

 内服は連日内服、週1回内服、月1回内服を選ぶことができます。食道炎などの胃腸障害の予防のため、起床時に服用し、コップ1杯(180ml)以上の水とともに服用することと、内服後に30分以上は横にならないことを守っていただく必要があります。食道の通過障害、アカラシアなどがある場合や30分以上座っていられない方は食道に薬剤が滞留する危険性があり、使用できません。この「起床時内服」がなかなか難しいという声もよく聞きますので、週1回タイプでも忘れやすくて難しい場合は月1回のタイプもありますのでご相談ください。

 重要な副作用は胃腸障害(食道炎)と顎骨壊死です。胃腸障害は軽い胃腸症状から重篤なものまであります。軽い症状の方であれば月1回の内服に変更することや、注射製剤に変更することで胃腸障害が解決する場合もあります。主治医にご相談ください。

 顎骨壊死は重篤な副作用の一つであり、経口ビスホスホネート服用者10万人あたり0.85人に発生する、という報告があります。頻度は低いですが、あごの骨が壊死してしまう病気であり、一度発生すると非常に難治性です。特に歯科における抜歯やインプラントなど、比較的大きな手術の後に発生することが知られています。通常、ビスホスホネートを開始するときに必ず歯科治療の有無や、今後抜歯などの予定が無いかを確認します。もしも大きな歯科治療が直近に控えている場合、ビスホスホネート開始をすこし待って、歯の状態が落ち着いたところで開始することもあります。もしもすでにビスホスホネートを服用している場合、休薬が必要になるケースがあります。ビスホスホネートで治療中の患者様が歯科で治療を受ける場合、ビスホスホネートを内服していることをきちんと歯科医につたえることが重要です。また、口腔内の衛生状態を良好に保つことが大事ですので、定期的に歯科でチェックを受けるようにすると良いでしょう。

 

・ビスホスホネート(注射製剤)

 現在、注射で使用できるビスホスホネートはアレンドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネートの3種類があります。注射の利点は、胃腸障害の発生が起こりにくいこと、「内服後30分横にならない」というルールが不要なこと、内服忘れが多い人でも注射なら確実に病院で治療ができること、などです。また、一般的に内服薬のビスホスホネートは消化管での吸収率が低いという問題点があり、注射製剤は直接骨に届くため薬効が確実です。

  アレンドロネート:4週に1回 30分以上かけて点滴

  イバンドロネート:1か月1に1回、静脈注射

  ゾレドロネート:1年に1回15分以上かけて点滴

 カルシウムの血中濃度が低い場合は使用できません。またゾレドロネートは腎障害の発生が報告されており、腎障害の方、脱水状態の方には投与できません。採血による投与前の腎機能チェックはもちろん、投与後も定期的に採血を行い、腎障害の確認が必要となります。顎骨壊死は内服薬と同様に注意が必要です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医にビスホスホネート治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。ビスホスホネートの内服が難しい場合や胃腸障害がある場合に、注射薬は選択肢となりますので医師にご相談ください。