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骨粗しょう症の基本(疫学・メカニズム・予後)

定義

骨量が減少し、骨の組織構造に異常が生じ、骨が脆弱な状態となって、「骨折」の危険性(リスク)が増大した状態です。骨粗鬆症は「疾患」であり、骨折は結果的に生じた合併症、とみることができます。骨粗鬆症自体は痛みがありませんので、自覚がないままに「疾患」が進行し、ある日突然、「骨折」に至ります。静かに病気が進行する、という点が特徴でありかつ問題点であると言えます。

疫学
近年の大規模住民検査の報告によりますと、40歳以上の一般人のうち、骨粗鬆症の基準を満たした人は、腰椎で男性3.4%・女性19.2%、大腿骨頸部は男性12.4%・女性26.5%でした。これを年齢別人口に当てはめて推計しますと、日本の男性で300万人、女性で980万人が骨粗鬆症である可能性があります。日本人の10人に1人は骨粗鬆症である、という推計であり、かなり多くの人々が骨折のリスクを抱えていることになります。10人に1人、約10%と申し上げましたが、年代別、性別で考えることも重要です。特に女性の場合、60歳以降に骨粗鬆症が急増し、60歳代で20%台、70歳代で40%、80歳以降で60%程度が骨粗鬆症(大腿骨頸部)と推計されています。近年は健診で骨密度測定を測定することもできるようになりましたが、いまだ未診断の状況にある骨粗鬆症の患者様も多くいらっしゃることが予想されます。50歳代以降、閉経後の女性に骨密度検査を強く勧めるのはこのような疫学調査があるためです。

骨粗鬆症のメカニズムとは?
骨には骨の形成・維持に重要な細胞が2種類存在します。一つは「破骨細胞」であり、もう一つは「骨芽細胞」です。「破骨細胞」は骨の「吸収」を担当し、「骨芽細胞」は骨の「形成」を担当します。骨は一見すると何も動いていないように見えますが、古い骨は「吸収」されて、新しい骨が「形成」されます(骨のリモデリングと言います。)。私たちの骨は常にこの「吸収」と「形成」のサイクル繰り返しており通常状態ではこれらが平衡しているため、骨量は不変です。骨粗鬆症の要因の一つと「吸収」と「形成」のアンバランスが考えられています。「吸収」が上回って「形成」が間に合わなければ骨量は減少します。例えば、閉経によるエストロゲン欠乏、副甲状腺ホルモン異常などにより「骨吸収」が亢進すると、「骨形成」が間に合わない状況となり骨粗鬆症となります。カルシウムやビタミンD欠乏が続けば、「骨形成」に影響が生じます。膠原病・自己免疫疾患などの治療で用いる「ステロイド」は長期に使用する場合に骨粗鬆症の原因となりますが、これも「骨吸収」と「骨形成」のアンバランスによる影響が考えられています。
 骨リモデリング以外の要因として、「酸化ストレス」やビタミンK、ビタミンD不足による骨基質の劣化と骨質の低下も指摘されています。「酸化ストレス」の要因としては生活習慣病・加齢・閉経・血中ホモシステインの増大などが挙げられています。生活習慣病の管理というと一般的には動脈硬化などに伴う脳卒中や心筋梗塞の予防、というイメージが強いですが、骨粗鬆症にも影響をおよぼしますので注意が必要です。

骨粗鬆症の予後(治療しないとどうなる?)
 骨粗鬆症を治療しないとどうなるのか、という質問をうけることがあります。まず、骨粗鬆症の自然経過について、理解する必要があると思います。人間の骨量は生まれてから徐々に増大し20歳代で最大骨量になります。男性も女性も50歳代までは高い骨密度を維持しますが、女性は閉経を迎えると女性ホルモン(エストロゲン)が枯渇し、10年間で骨量は著しく低下します。男性も低下しますが、女性に比べると緩徐です。そもそも、自然に低下するものを無理やり治療するなんて、自然の摂理に反する、とお考えの方もいるかもしれません。人間の平均寿命が50歳程度の時代であれば、骨粗鬆症は大きな問題にならなかったのかもしれません。現在の日本の平均寿命(女性)は80歳代後半に達しており、100歳以上の方も多くなっています。女性の場合、平均寿命まで生きると仮定して、閉経後に少なくとも30年以上、元気に過ごしていただく必要があります。

 もしも骨粗鬆症を治療しない場合、骨折の危険性が増します。脆弱性骨折の中でも、「大腿骨近位部骨折」(太ももの一番太い骨の股関節に近い部分の骨折)は歩行ができないばかりか、通常は入院、手術を要し、リハビリが長期にわたって必要となります。リハビリで元通りに回復すればいいですが、元の状態に戻ることが難しく、車いす生活や寝たきり生活になってしまうケースもあります。一回骨折すれば、たくさんの時間とお金が無くなり、場合によっては移動する自由を失ってしまいます。これは個人ばかりでなく、家族・社会にとっても大きな損失です。いくつかの研究で「大腿骨近位部骨折」は死亡率を上昇させて生命予後に直結する、ということも示されています。ある研究では12年間の追跡で、大腿骨近位部の骨密度が低い群は高い群にくらべてハザード比2.58で死亡率が上昇しました(Suzukiら/Osteoporos Int. 2010 ;21:71-9)。これは年齢や体重、コレステロールや糖尿病などのいくつかのリスク要因の調整後の数値であり、骨密度が低い状態は死亡率と密接的に関連していると考えられます。せっかく高齢化社会を迎えたのに、多くの女性が骨折し、生活の質が低下するという事態は避けなければなりません。生活の質を保ち、元気に長生きするために、骨粗鬆症に対するケアは重要と考えられます。