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新しい帯状疱疹ワクチンについて

帯状疱疹とは

 帯状疱疹は体の片側に水疱を伴うブツブツとした皮疹と同部位の激しい痛みによって発症する病気です。痛みの程度はかなり強く、「電気が流れるように」とか、「何かに強くたたかれるような」といった表現をされることも多いです。皮疹と疼痛が同時に出る場合、診断は簡単なことが多いですが、まれに疼痛が先行して皮疹が後から出る場合があり、この場合、診断に時間がかかることもあります。私が医者3年目の時の経験ですが、「お腹が痛い」と言って来院されて、レントゲンや採血で異常が認められず、CTを施行して、胃カメラをしても原因がわからず、1週間後に皮疹が出現して「帯状疱疹」と診断、ということもありました。

 帯状疱疹の原因ウイルスは「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」です。VZVに初めて感染すると水痘を発症します。いわゆる「水ぼうそう」です。子供に多い病気ですが、まれに成人で発症する場合があり、この場合は重篤になることがあります。1度感染すると終生免疫となりますので、2回目の「水ぼうそう(全身性水痘)」を発症することはほぼありません。

ほとんどの人が成人までにVZVに罹患します。最近はワクチンの普及によって未感染の若年者もいます。感染後、VZVは知覚神経節に潜伏します。つまり、ほとんどの成人の方は知覚神経節にVZVを持っている可能性が高い、ということになります。加齢に伴ってVZVに対する免疫が低下すると知覚神経節に潜伏していたVZVが活性化し、帯状疱疹を発生すると考えられています。知覚神経節は背骨の左右に対に存在するため、神経の走行に沿って帯状に発症します。通常は一つの知覚神経節に起こるため、左右どちらかに帯状に皮疹が出現します。右のお腹、左足、右顔面、左腕、といった感じで片方に出ることが多いです。まれに同時に複数の部位が罹患することがあります。

帯状疱疹は目の周囲で発症することもあります。その場合は目の合併症を起こすことがあり、最悪の場合、失明の危険性があります。目の周囲で帯状疱疹を起こした場合、眼科医の診察が必要になり、緊急入院が必要になる場合もあります。

 帯状疱疹の通常の治療は抗ウイルス薬の内服になります。通常は1週間の内服になります。神経痛症状に対して鎮痛薬やビタミン製剤を追加することもあります。

 

帯状疱疹後神経痛

 帯状疱疹の皮疹は1週間のウイルス治療で徐々に回復し最終的には色素沈着を残す程度でもとに戻ることが多いです。ところが、同時に出現する疼痛はなかなか良くならず、数か月から場合によっては1年以上、びりびりとした疼痛に悩まされる人がいます。この痛みは神経性の痛みであり、「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれます。一般的な鎮痛薬があまり効かないという特徴があります。神経系に効く鎮痛薬やビタミン剤が良く処方されますが、それでも改善が見込めない場合、ペインクリニックなどにご相談の上、レーザー治療や麻薬、抗うつ薬などを追加することもあります。疼痛の部位によっては生活の質を大きく下げることがあり、難治性のため長期間に渡って(年単位で)治療を要することもあります。

 

疫学研究とワクチンの必要性

 宮崎県で行われた研究(Shiraki K. et al.: Open Forum Infect Dis. 4(1), ofx007, 2017)によりますと、帯状疱疹の発症率は50歳台から急上昇し、70歳台にピークをむかえます。80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されています。想像よりも多いと思いましたか? いろいろな病気の中でも、3人に1人が発症する疾患はかなりの高確率と言えます。命にかかわる危険性は低いかもしれませんが、発症すれば医療費がかかり、神経痛の後遺障害で長期通院が必要になる可能性もあります。失明のリスクも無視することができません。この発症率の高さゆえ、ワクチンを使って予防することが重要と考えられるようになりました。

 

「生」ワクチンと新しいワクチン

2016年以降、50歳以上の帯状疱疹の予防として使用してきたワクチンは「水痘「生」ワクチン」でした。「生」ワクチンは免疫不全がある人や、免疫抑制治療中の人に投与することができません。関節リウマチや膠原病で治療を受けている方が該当するため、当院に通院されている関節リウマチ患者様の大半は「生」ワクチン接種は不適当です。このため、こうした免疫抑制治療中の方に使えるワクチンが求められてきました。

2020年1月に新規帯状疱疹ワクチン「シングリックス®」が発売され、50歳以上の方に接種できるようになりました。合成されたワクチンのため、関節リウマチなどに対する免疫抑制治療中の患者様でも接種することが可能です。また、免疫賦活剤(免疫を活性化させやすくする物質)を混合しているため、強い免疫原性を誘導し、強いワクチン効果が得られるとされています。

 

帯状疱疹ワクチン「シングリックス®」について

 

有効性

 接種後4年間の試験では50歳台、60歳台、70歳台、80歳台までのすべての年代で帯状疱疹の予防効果が示されており、50歳以上のすべての年代の方に接種が勧められるワクチンです。また、長期試験では7.1年(平均値)まで帯状疱疹の予防効果が観察されています(1年後で予防効果が97.7%、7年後で85.3%)。免疫原性試験(免疫がVZVの成分に反応するかどうかを調べる検査)では10年後でも反応が確認できました。現時点では、肺炎球菌ワクチンのような5年ごとの反復接種は不要です。

 

投与法

シングリックス®は原則的に2回接種が必要です。筋肉注射で、通常肩に接種します。(新型コロナワクチンと同じ接種方法です。)1回目の接種のあと、2か月間の間隔をあけて、2回目の接種を行います。もしも2か月を超えた場合でも、6か月後までに接種を行うことが推奨されています。

クリニックで接種を終えたら、経過観察のため30分間、院内で待機していただきます。特に問題が無ければ帰宅可能です。当日はお風呂に入ることはできますが、長時間の入浴は避けてください。接種から24時間は激しい運動、飲酒を避けてください。

 

副作用

 2つの国際共同第Ⅲ相臨床試験の併合解析(ZOSTER-006/022併合解析)の結果、接種後7日間で局所性(注射部位)の副反応は3,944/4,884例(80.8%)に認められました。

接種部位の疼痛3,810例(78.0%)、発赤1,863例(38.1%)、腫脹1,267例(25.9%)で、持続期間の中央値はすべて3.0日でした。

全身性(注射部位以外)の副反応は3,159/4,876例(64.8%)に認められ、主なものは、筋肉痛1,949例(40.0%)、疲労1,895例(38.9%)、頭痛1,588例(32.6%)、悪寒1148例(23.5%)、発熱872例(17.9%)、胃腸症状636例(13.0%)でした。

これらの数字は軽症から重症まですべてを含みます。ざっくりと説明すると、3-4割に発赤・腫脹や筋肉痛、だるさが出現し、微熱や発熱が1-2割という結果になります。新型コロナワクチン接種後に発熱や筋肉痛が出た方もいらっしゃると思いますが、そういった副反応が出る可能性もあるということでご留意いただければと思います。

 1%未満のまれな副反応として、蕁麻疹、そう痒(かゆみ)、咽頭痛、咳、関節痛、めまい、不眠、傾眠、鼻咽頭炎、インフルエンザ様症状、などが報告されています。

 アナフィラキシーショックはすべてのワクチンについて起こりうる副反応です。もしもワクチン接種後30分以内に、浮腫、じんましん、呼吸困難(喘息のような症状)が出現した場合、直ちにエピネフリン投与を行い、救急搬送など適切な処置を行います。

シングリックス®の接種により健康被害が発生した場合には「医薬品副作用被害救済制度」により治療費等が支給される場合があります。(詳しくは独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページ等を確認してください。)

 

 

費用

当クリニックではシングリックス®1回21,000円(自費診療)(2回で42,000円)です。

水痘帯状疱疹「生」ワクチンは1回9,000円(自費診療)です。

 

※公的補助

 令和5年7月よりシングリックス®や水痘生ワクチン接種に対して一部助成が得られる可能性があります。詳細がわかりましたらこのホームページに情報を追加で記載いたします。