骨粗しょう症

骨粗しょう症の薬(後編)

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 前回は内服薬とビスホスホネート注射剤について解説しました。今回は後編で、近年登場した比較的新しい骨粗しょう症治療薬について解説します。今回ご紹介する3剤はすべて注射剤です。

 

・デノスマブ(プラリア®)

 骨吸収抑制薬の新しい注射薬です。RANKLという物質を阻害する抗体製剤であり、生物学的製剤(ヒトIgG2型モノクローナル抗体)です。RANKLは破骨細胞の分化(破骨細胞の成長)を担う物質であり、これをブロックすることで破骨細胞の働きが落ち、骨吸収が抑制されます。半年に1回の皮下注射であり、飲み忘れの心配はありません。(関節リウマチ患者の骨破壊抑制に対する場合、3か月に1回の投与が可能です。)

 副作用として低カルシウム血症と顎骨壊死があります。デノスマブ治療中は低カルシウム状態を予防するため、カルシウムとビタミンDの合剤(デノタス®)を1日1回2錠服用します。(すでにビタミンD3製剤を服用している場合はそちらを継続します。)腎障害がある場合、カルシウム濃度が上昇しすぎる場合があり、その場合は中止になります。半年に1回の注射はとても楽ですが、サプリメントの連日服用が必須となりますのでその点はご承知おきください。

 顎骨壊死は前回のビスホスホネートで記載した内容と一緒です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医師にデノスマブ(プラリア®)治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。プラリア®投与中に抜歯などが予定された場合、「顎骨壊死研究会ポジションペーパー2016」によりますと、「デノスマブの血中半減期が約1か月であることなどを加味して、歯科治療の時期や内容を検討することは可能であろう。」と記載されています。デノスマブ投与中に歯科治療がどうしても必要な場合は、歯科医と相談の上で治療方針を決定することになります。

 デノスマブ投与中止後に骨折が増加する可能性が指摘されています。デノスマブには投薬期間の制限はなく、長期間使用することも可能ですが、中止基準も特に定められていません。中止後に骨代謝マーカーが元に戻るというデータもあり、中止後は比較的速やかに、ビスホスホネートなどの他の骨吸収抑制剤を開始するべきでしょう。

 骨粗しょう症ガイドラインにおける有効性評価ではすべてA評価(骨密度上昇、椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位の骨折抑制)でした。ビスホスホネートと同等の薬効が期待されることから、ビスホスホネート使用が難しい患者様などでは選択肢になりやすい薬剤と言えます。

 

・テリパラチド、テリパラチド酢酸塩

 副甲状腺ホルモンは骨を作る「骨芽細胞」の働きを活性化させるホルモンであり、骨の合成に重要なホルモンの一つです。テリパラチドはこの副甲状腺ホルモンの一部を合成した製剤であり、副甲状腺ホルモンと類似の作用で、骨密度を上昇させます。これまで説明してきた薬剤はすべて骨吸収抑制作用が中心でしたが、このテリパラチドと後述するロモソズマブは「骨形成」促進薬です。骨形成の作用を示すことから「強力な」骨粗しょう症治療薬と言えます。保険適応病名も「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」となっており、通常の骨粗しょう症治療薬よりも一段階の上の位置づけとなっています。テリパラチドとテリパラチド酢酸塩があり、投与間隔が異なります。高額な薬剤ですが、近年、やや薬価の安いバイオシミラーも登場しています。

 ・テリパラチド:毎日1回 自己注射

 ・テリパラチド酢酸塩:週1回 皮下注射(病院で注射)もしくは 週2回 自己注射

 血中カルシウム濃度が上昇する場合があり、定期的な採血によるモニタリングが必要です。長期投与の安全性の問題で、投与期間は24か月(2年間)です。2年の治療が終了したら、ビスホスホネートやデノスマブに切り替えることが一般的です。

 骨密度の上昇効果、椎体骨折、非椎体骨折の抑制効果に対してA評価です。

 テリパラチドは第一選択薬という位置づけではなく、既存治療にも関わらず骨折があった場合や、高齢者ですでに複数の骨折があり今後も骨折リスクが高いと判断される場合、などに適応があります。自己注射製剤の場合、自己注射が安全に行えるか、理解力があるか、家族のサポートがあるか、などが自己注射を導入する際のポイントになります。週1回で通院可能であればテリパラチド酢酸塩を選択します。

 

・ロモソズマブ(イベニティ®)

 ロモソズマブはスクレロスチンという物質を阻害するモノクローナル抗体製剤で、近年承認された強力な骨粗しょう症治療薬です。毎月1回につき2本を皮下注射します。12か月で治療は終了します。ロモソズマブは骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を同時に発揮します。これまで骨形成作用がある薬剤はテリパラチドのみでしたから、ロモソズマブの登場によって骨形成作用のある薬剤の選択肢が増えました。月1回の皮下注射であることからテリパラチドよりも利便性が高く治療の継続率が高まることが予想されます。テリパラチドと同様に保険適用は「骨折の危険性の高い骨粗しょう症」です。ガイドラインにはまだ未記載ですが、強力な骨密度上昇作用があることからテリパラチドと同等の位置づけになることが予想されます。

 心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞)の副作用が報告され、添付文書にも「有益性投与」の記載が追加されました。心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症の既往がある場合や動脈硬化のリスクが高い方は使用を避けたほうがいいと考えられます。血中カルシウム濃度の低下する場合があることから定期的な採血は必要です。血栓症のリスクが高くなく、これまでの治療に抵抗性の骨折があり、複数の椎体骨折がある場合などには投与を検討するべき薬剤と言えます。

 

骨折リスクと薬剤選択(まとめ)

 現時点で参照できるガイドラインなどを総合した薬剤治療選択をまとめます(私見を含みます)。骨粗しょう症と診断したらまず個々の患者様の骨折のリスクを把握します。

 ・リスクが低い場合、エルデカルシトールやSERM(女性のみ)から治療を開始します。

 ・リスクが高い場合やステロイド性骨粗鬆症などは、ビスホスホネート・デノスマブを開始します。

 ・すでに複数の骨折がある場合や非常に骨密度が低い場合、複数の骨折リスク因子がある場合などはテリパラチド・ロモソズマブの投与を考慮します。

 治療の有効性判定は主にDXAによる骨密度測定で行い、適宜、骨代謝マーカーを測定します。

 

 骨粗しょう症はほとんどの場合、無症状です。なかなか治療の意欲もわかず、他の生活習慣病などに比べて後回しにされやすい病気だと思います。近年の研究で、健康に長生きするためには骨粗しょう症対策も重要であることがわかってきました。薬剤が進歩し、治療の選択肢も増えてきました。保険を使って治療ができます。健診で骨密度が低めと言われた方、ご自身の骨密度に不安がある方がいらっしゃいましたら、お気軽にご来院の上、ご相談をいただけたらと思います。

骨粗しょう症の薬(前編)

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 前編では骨粗しょう症治療でよく使われる内服薬として、ビタミンD3製剤、SERM、ビスホスホネートについて記載します。(ビスホスホネートは一部注射もあります。)後編では注射の骨粗しょう症製剤について解説します。

 

・エルデカルシトール(活性型ビタミンD3)

 ビタミンDは骨代謝における重要なビタミンであることはこれまでに申し上げてきました。これらのうち活性型といって、そのままの状態でビタミンD受容体と結合して作用を発揮するものを活性型ビタミンD製剤と言います。天然型ビタミンD(サプリメントや食事に含まれるもの)に比べて、活性型ビタミンDは骨折抑制効果にすぐれています。活性型ビタミンD3ではアルファカルシドールが汎用されていましたが、エルデカルシトールはより強力な骨量増加作用を目的として合成されました。エルデカルシトールは消化管からのカルシウム吸収促進作用に加えて、骨吸収を抑制する作用を示し、アルファカルシドールに比較して有意に骨量を増加させ、椎体骨折の抑制効果を示しました。活性型ビタミンD3製剤においては唯一、椎体骨折抑制でA評価となっています。副作用は血中Ca濃度の上昇や尿路結石があるため定期的な血中ならびに尿中Ca濃度の測定が必要です。

 

・SERM(ラロキシフェン・バゼドキシフェン)

 SERMはエストロゲン受容体に結合しますが、乳房や子宮に作用せず、骨や脂質代謝には作用するように組織選択的に効果を発揮する薬剤です。骨に対しては骨吸収抑制作用によって骨密度の上昇作用があり、椎体骨折予防効果も示すことから、ガイドラインにおける評価もAとなっています。このほかにも、骨質の改善作用や乳癌リスクの低下、脂質代謝(コレステロールなど)の改善効果があります。更年期症状には無効です。また、女性ホルモンの治療全般に言えることですが、血栓ができやすくなる副作用が懸念されており、頻度は低いですが、静脈血栓塞栓症の発症に注意が必要です。血栓症の素因がある「抗リン脂質抗体症候群」の患者や静脈系の血栓症既往がある人には投与できません。後述するビスホスホネートに比べると内服時間はいつでもよく、1日1回の飲み薬で、胃腸障害もほとんどありませんので、飲みやすい薬剤と言えます。

 

・ビスホスホネート

 骨粗しょう症治療の中で、最も汎用されている薬剤です。体内に入ったビスホスホネートはまず骨に分布し吸着します。骨に吸着したビスホスホネートはやがて破骨細胞に取り込まれます。ビスホスホネートを取り込んだ破骨細胞はアポトーシスと言って自ら死滅していきます。この働きによって、骨吸収ができなくなり、骨密度が上昇する、という薬理作用となっています。日本で骨粗しょう症に使用できるビスホスホネートは内服または注射が5種類、注射のみが1種類あります。第一世代:エチドロネート、第二世代:アレンドロネート、イバンドロネート、第三世代:リセドロネート、ミノドロネート、ゾレドロネート(注射のみ)。エチドロネートは最近処方される頻度は減ってきましたので、第二世代以降が主に使用されています。ガイドラインにおいて、骨密度上昇・椎体骨・非椎体骨・大腿骨近位部骨折の抑制効果についてすべてA評価になったのが、アレンドロネートとリセドロネートの2種類です。

 内服は連日内服、週1回内服、月1回内服を選ぶことができます。食道炎などの胃腸障害の予防のため、起床時に服用し、コップ1杯(180ml)以上の水とともに服用することと、内服後に30分以上は横にならないことを守っていただく必要があります。食道の通過障害、アカラシアなどがある場合や30分以上座っていられない方は食道に薬剤が滞留する危険性があり、使用できません。この「起床時内服」がなかなか難しいという声もよく聞きますので、週1回タイプでも忘れやすくて難しい場合は月1回のタイプもありますのでご相談ください。

 重要な副作用は胃腸障害(食道炎)と顎骨壊死です。胃腸障害は軽い胃腸症状から重篤なものまであります。軽い症状の方であれば月1回の内服に変更することや、注射製剤に変更することで胃腸障害が解決する場合もあります。主治医にご相談ください。

 顎骨壊死は重篤な副作用の一つであり、経口ビスホスホネート服用者10万人あたり0.85人に発生する、という報告があります。頻度は低いですが、あごの骨が壊死してしまう病気であり、一度発生すると非常に難治性です。特に歯科における抜歯やインプラントなど、比較的大きな手術の後に発生することが知られています。通常、ビスホスホネートを開始するときに必ず歯科治療の有無や、今後抜歯などの予定が無いかを確認します。もしも大きな歯科治療が直近に控えている場合、ビスホスホネート開始をすこし待って、歯の状態が落ち着いたところで開始することもあります。もしもすでにビスホスホネートを服用している場合、休薬が必要になるケースがあります。ビスホスホネートで治療中の患者様が歯科で治療を受ける場合、ビスホスホネートを内服していることをきちんと歯科医につたえることが重要です。また、口腔内の衛生状態を良好に保つことが大事ですので、定期的に歯科でチェックを受けるようにすると良いでしょう。

 

・ビスホスホネート(注射製剤)

 現在、注射で使用できるビスホスホネートはアレンドロネート、イバンドロネート、ゾレドロネートの3種類があります。注射の利点は、胃腸障害の発生が起こりにくいこと、「内服後30分横にならない」というルールが不要なこと、内服忘れが多い人でも注射なら確実に病院で治療ができること、などです。また、一般的に内服薬のビスホスホネートは消化管での吸収率が低いという問題点があり、注射製剤は直接骨に届くため薬効が確実です。

  アレンドロネート:4週に1回 30分以上かけて点滴

  イバンドロネート:1か月1に1回、静脈注射

  ゾレドロネート:1年に1回15分以上かけて点滴

 カルシウムの血中濃度が低い場合は使用できません。またゾレドロネートは腎障害の発生が報告されており、腎障害の方、脱水状態の方には投与できません。採血による投与前の腎機能チェックはもちろん、投与後も定期的に採血を行い、腎障害の確認が必要となります。顎骨壊死は内服薬と同様に注意が必要です。投与前に大きな歯科治療を終わらせること、投与中は歯科医にビスホスホネート治療中であることを伝えること、口腔の衛生状態を良好に保つため定期的に歯科でチェックを受けてもらうこと、がとても重要です。ビスホスホネートの内服が難しい場合や胃腸障害がある場合に、注射薬は選択肢となりますので医師にご相談ください。

骨粗しょう症の治療をやめてしまった人へ

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治療のモチベーション

こんな方がいらっしゃいました。65歳の女性でやせ型です。「私は酒もタバコもやりませんし、少しやせていると思いますが、よく歩くほうだし、乳製品も小魚もよく食べます。まさかこんなに骨密度が低いとは思いませんでした。」と言って示された数値は対若年者比(YAM)70%でした。70%は「薬物」治療の対象です。女性の言う通り、生活面はかなり気を遣っているのですが、よくお話を聞くとお母様が大腿骨の骨折歴があるそうです。また閉経が40歳代で少し早かった、ということです。このような場合、やはりリスクが高いですので、生活面をこれ以上改善させてもなかなか自力で骨密度を上げていくのは難しいと考えるべきでしょう。患者様には現状と今後起こりうる骨折の危険性を説明して、薬物治療を提案しました。健康そのものという感じであまり薬を飲んだこともない、という方でしたので薬物治療については抵抗感がありましたが、最終的には合意してくださいました。6か月後、骨密度を測定しましたが、全く良くならず、むしろやや低下していました。どうしたことかと伺ってみますと、薬をしっかりと飲んでなかったということがわかりました。服薬率が低く、治療がうまくいってなかったのです。

このケースの場合、治療に対するモチベーションが上がらなかった、ということが一番の問題点でした。骨粗鬆症は骨折が起こらない限り、無症状です。人間だれしも、無症状だとなかなか治療の「やる気」が出てこないものです。この女性の心理状態も十分に理解可能です。

治療の「やる気」が起きない原因

 治療に対する意欲が起きないとなかなか服薬に結びつかず、飲み忘れや中断、ということになりやすくなります。骨粗鬆症の治療をはじめて1年後、処方通りに飲めていない患者が30~50%という報告もあります。服薬が続かない要因、治療のモチベーションが下がる要因はいくつか指摘されています。

 ・治療への理解が乏しい(治療しなくても何とかなるのではないか)

 ・費用(他の薬を複数内服している、骨粗鬆症の薬は後回しでいいかな)

 ・薬物への不信感

ビスホスホネート製剤(代表的な骨粗鬆症治療薬、後述)に特徴的な要因

 ・胃腸障害(薬を飲んだ後気持ち悪くなる。)

 ・服薬方法が面倒(起床時、コップ1杯の水とともに、内服後横にならない)

 

治療の「やる気」を上げるため

 治療のやる気を上げる要因もいくつか指摘されています。

  ・定期的な骨密度、骨代謝マーカーの測定

  ・医療者からの積極的な働きかけ、声掛け

  ・定期的な運動習慣

  ・家族に骨粗鬆症がいる

  ・骨折している・すでに骨折していた

  ・早期閉経、ステロイド服用者などでリスクを理解している人

  ・内服から注射へ変更

 漫然と治療するのではなく、定期的に骨密度や血液検査を行って、治療の目標に近づいているのか、治療でよくなっているのか確認することは大事なことです。患者様に骨粗鬆症を理解してもらうこと、治療の必要性をわかってもらうことも大事ですので、私たちも継続的に治療の必要性をお話ししたいと思います。

患者様からも治療で生じる様々な疑問や問題はできるだけ私たちへお話しいただければと思います。例えば、内服が面倒だとか、飲んだ後気持ち悪い、などについては注射のお薬に変更することで解決することもあります。治療を中断したり、忘れたりすることはよくあることです。原因がどこにあるのか検討して、できるだけ継続できるような治療をご提案いたします。

骨粗しょう症(3)(骨粗しょう症・骨量減少と言われたら)

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薬物治療をすぐにはじめるべきですか?

 骨量減少が確認されたとき、全員がすぐに薬物治療を始めるわけではありません。軽い骨量減少であれば生活指導で経過をみることもできます。薬物を開始するかどうかの基準は「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」に記載されています。

  ・大腿骨の股関節に近い部分や背骨の骨折がすでにある場合

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70%未満

これらの場合、薬物治療の対象になります。また、

  ・骨密度検査で対若年者比(YAM)70から80%未満

この場合、脆弱性骨折の有無やリスク因子、家族歴などを聴取して薬物治療を開始するかどうか判定します。これらの基準は、関節リウマチ患者、ステロイド使用者、続発性骨粗鬆症患者(糖尿病や慢性腎不全なども含む)の場合には当てはまりませんので注意が必要です。

 関節リウマチ患者様やステロイドを服用している患者様の場合、健常者に比べて骨折リスクが高いことが知られています。このような患者様の場合、閉経前の女性であっても、基本的に全員に骨密度測定をお勧めし、必要に応じて、薬物治療をご提案いたします。

 

血液検査(骨代謝マーカー)のチェックも受けましょう

 骨密度測定検査(DXA)は骨粗しょう症の診断・治療の中心的な検査になります。他に、血液検査で骨粗鬆症の状態を判定することが可能です。現在保険で認められている骨代謝マーカーはいくつかありますが、大きく分けて3種類あります。

  ・骨吸収マーカー:TRACP-5b、NTXなど

  ・骨形成マーカー:P1NP、BAP

  ・骨マトリックス関連マーカー:ucOC

骨粗鬆症の早期の段階で骨吸収マーカーが高値の場合、骨吸収が亢進している可能性があり、骨吸収抑制薬の投与を決断する根拠となります。骨形成を促進するテリパラチド・ロモソズマブなどを使用しているときに、骨形成マーカーを測定することで治療効果を判定することが可能となります。骨マトリックス関連マーカーはビタミンK不足の有無の判断に活用できます。

これらのマーカーは頻回に測定することはできません。治療開始前に骨吸収マーカーと形成マーカーを測定し、骨粗鬆症の病態を確認することが多いです。治療開始後は治療効果判定のために吸収や形成マーカーを数か月の間隔をあけて再度測定することがあります。

 

薬物以外の生活指導

 骨粗鬆症の治療薬は種類も多く、近年は効果の高い薬剤も臨床で用いられるようになりました。骨粗鬆症の薬物治療は進歩していますが、すべての薬物治療の前提条件として、生活指導はかかせません。ここでは代表的かつ重要とされている(1)食事、(2)運動について説明いたします。

 

食事

・カルシウム

カルシウムの摂取は予防、治療に必要不可欠です。(必要条件ですが、十分条件ではありません。)また、カルシウムだけ過剰に摂取しても腸から吸収されるカルシウム量には限界があり、ビタミンDを摂取しないと吸収が上手くいかないこともわかっています。カルシウムだけでなく、必要な栄養素をバランスよくとることが重要です。骨粗鬆症治療では1日700から800mgのカルシウム摂取およびビタミンDの摂取が推奨されています。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良いとされます。(真っ黒に日焼けする必要はありません。)。

カルシウムは乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品などに多く含まれています。カルシウムサプリメントについてはよく問い合わせを受けます。ご年配の方が急激に大量のカルシウムとビタミンDを摂取し血中のカルシウムが急上昇することで健康被害が出るケースも考えられます。1回に服用する量が500㎎を超えないこと、通院中であれば定期的に血中のカルシウムやリンの濃度を測定すること、カルシウム濃度が高い場合は中止する、などの対策が考えられます。通院中の方はまず主治医にご相談していただくといいと思われます。

・ビタミンD

ビタミンDはカルシウムの吸収に重要です。ビタミンDは高齢者で不足状態になっていることがしばしば指摘されています。魚類、キノコ類に多く含まれており、これらをしっかりと摂取することが重要です。

・ビタミンK

ビタミンKも骨密度の維持に重要なビタミンです。納豆や緑色野菜に多く含まれています。もしもこれらの摂取が少ないことが予想される場合、または、血中ucOCを測定して高値の場合は、ビタミンKの多い食品の摂取をすすめます。(ワーファリンを内服中の方はビタミンKの過剰摂取はできませんのでご注意ください。)

 

運動

 これまで閉経後の女性を対象とした複数の研究がなされており、ウォーキング、有酸素運動(自転車、水泳など)、下肢の荷重運動・筋力トレーニングは大腿骨(太ももの骨)や腰椎(腰の背骨)の骨密度維持・上昇に有効であることが示されています(Howe TE et al. Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women.; Cochrane Database Syst Rev. 2011; 6; 7)。「骨粗鬆症対策に運動がよい」というのは科学的にしっかりと証明されており、生活指導の中でも最も重視するべきポイントと言えます。

運動というとジムの筋トレを思いつく人がいますが、いきなり負荷の強い運動を行うことはかえって逆効果です。まずは歩行から始めましょう。閉経後の女性(平均年齢65歳)を対象とした研究では、1日8,000歩、週4日以上を1年間継続すると骨密度が上昇したそうです(Yamazaki S et al. J Bone Miner Metab. 2004;22(5):500)。1日8000歩は今まで歩いていない人にとってはハードルが高いと思います。いきなりこのレベルで歩くのは難しいと思いますので、徐々に歩く距離を増やしていけばいいと思います。また、心臓や肺の疾患がある場合も主治医によく相談したうえで運動の強さを考えていただければと思います。

関節リウマチや膝の変形性関節症などがあって、思い通りに歩けないケースもあると思います。自転車や水泳は一般的に膝の状態がよくない人でも取り入れることが可能です。また、家庭でもゆっくりとしたスクワット運動(反動をつけないでください。)は筋力維持・転倒防止に有用です。できることから少しずつ生活に取り入れていきましょう。関節の病気をお持ちの場合は主治医とよく相談して、運動療法を生活に取り入れていただければと思います。

骨粗しょう症(2)(ロコモ、リスク因子、検査、予防について)

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ロコモティブシンドロームと骨粗鬆症
 「ロコモティブシンドローム」という言葉をご存じでしょうか?運動器障害を包括的にとらえた概念であり、2007年に日本整形外科学会で提唱されました。「ロコモ」と略すこともあります。テレビなどで盛んに取り上げられていた時期もありましたし、現在も耳にすることがあるかもしれません。「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されております。移動機能とは立ち座り、歩行、階段昇降など、身体の移動に関する機能のことです。運動器の障害は主に加齢に伴う機能低下と運動器疾患を指しますので、「ロコモ」は多く場合、高齢者の問題になります。日本は高齢化社会を迎えており、今後、高齢者はますます増えていくことから、「ロコモ」の問題を抱える人も増加していくことが予想されています。
 中高年に多い運動器疾患は「変形性関節症」「脊椎症(脊柱管狭窄症)」「骨粗鬆症とそれに伴う脆弱性骨折」です。
 2013年の要介護・要支援患者の原因疾患の内訳は脳血管疾患21.5%、認知症15.3%、高齢に伴う衰弱13.7%、転倒・骨折11.8%、関節疾患10.9%であり、最後の2つを「運動器疾患」とすれば、原因の1位となります。転倒・骨折の頻度を減らすことができれば、要介護・要支援となる高齢者を減らすことが可能です。「ロコモ」が増える要因として「骨粗鬆症」とそれに伴う「骨折」は重要です。転倒して骨折すれば長期の入院、リハビリが必要となり、元の状態に戻るまでに長期間を要しますし、リハビリができなければ寝たきりとなります。骨粗鬆症の対策・治療をしっかり行うことでロコモを減らせる可能性があります。また、リハビリや筋力向上のトレーニングなどのロコモを減らす取り組みが結果的に骨粗鬆症を減らす可能性もあり、骨粗鬆症とロコモは原因と結果が相互に結びついていると考えられます。いずれにしましても、骨粗鬆症を放置して骨折にいたることはご本人にとっても社会にとってもマイナスであり、しっかりとした対策考えていくことが重要と考えられます。

 

脆弱性骨折の臨床的危険因子(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)
 骨粗鬆症を起こしやすい危険因子がいくつか指摘されています。上述の通り、「閉経後の女性」は骨粗鬆症に注意しなければなりませんが、それ以外にも、「やせ型」「脆弱性骨折の既往あり」「両親が大腿骨近位部骨折歴あり」「タバコ」「ステロイド内服治療」「関節リウマチ」「アルコール多飲」などに当てはまる場合には注意が必要です。
他にも、「糖尿病」「長期未治療のバセドウ病」「早期閉経」「慢性肝疾患」「栄養失調や吸収不良」などが続発性骨粗鬆の原因とされています。ここに挙げたリスク因子を一つあるいは複数お持ちの方は骨粗鬆症検査を受けられることをお勧めいたします。

 

Dual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)検査について
 骨粗鬆症の診断にはDual-energy X-ray Absorptiometry(DXA)を用いて、腰椎と大腿骨の骨密度測定を行う必要があります。65歳以上の女性、上述の危険因子をもつ閉経後から65歳未満の女性については、骨密度測定が推奨されます。また、男性の場合、70歳以上や、危険因子を有する50歳から70歳未満について骨密度測定は有用とされています。上述の疾患、関節リウマチ、ステロイド治療歴がある成人はすべて骨密度測定の対象となります。
 骨密度測定によって骨密度が低いと判定された場合、新規に骨折を発生する確率が高くなることがこれまでの様々な検討で明らかとされています。(低骨密度と新規骨折は高いレベルで相関します。)骨密度がYAMで10-12%低下すると、骨折リスクは1.5から2.6倍に上昇する、という研究もあります。
 DXA検査は腰椎と大腿骨の2か所の骨密度検査を測定します。妊娠中の方には施行できません。おへそから太ももにかけての検査になりますので、ズボンのファスナーや金属のボタンなどがあると検査に支障があります。必要に応じて、検査用のショートパンツにはきかえていただきます。検査台にあおむけで横になっていただき、2か所を測定します。測定時間はそれぞれ30秒程度で、痛みはありません。準備の時間を加えてもだいたい10分程度で検査は完了します。
 DXAは骨粗鬆症の診断や治療効果判定に有用です。当院では最新のDXAを備えてガイドラインで推奨されている腰椎と大腿骨の検査を行うことができます。骨粗鬆症が心配の方、治療に興味があるかた、上述のリスク因子をお持ちのかたは、病院レベルの骨粗鬆症の検査をいつでも行うことが可能ですので、お気軽にご相談ください。ご予約は不要です。

 

骨粗鬆症の予防(骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインより)

 中高年向けに骨粗鬆症の予防として推奨されているものを列挙します。このうち、エビデンスレベル、推奨グレードともに一番高いのは「運動(日常的な歩行運動)」でした。

  • 運動(推奨グレードB エビデンスレベルI): 歩行を中心とした日常的な軽い運動が骨密度の上昇に有効です。ジョギングやダンスなどの強い運動負荷は大腿骨の骨密度上昇に有効のデータもありますが、きちんとした管理下という条件付きであり、いきなり強い運動をするのではなく、まずは日常的な歩行を生活に取り入れましょう。
  • 体重管理(やせすぎない):やせると骨折リスクが上昇。適正体重の維持、やせの防止を。
  • 禁煙・節酒:喫煙は骨折リスクを上昇させます。飲酒はエタノール量で24g/日未満が推奨されています(ビール500ml1本で20gです。ワイン200mlくらい)。
  • 栄養: カルシウムやビタミンDを多く含む食品を摂取することは重要と考えられますが、骨密度を上昇させるという証拠(エビデンス)は残念ながら少ないです。ビタミンDは1日15分程度の日照暴露があるとさらに良好とされます。

近年よく指摘されていますが、女性の過度のダイエット志向、過剰な紫外線対策、運動不足などは将来の骨の健康を考えますとあまりいい状態とは言えません。これらに当てはまりそうな方は骨の健康についても意識していただき、早めに骨密度検査を受けることも検討されるといいと思います。

骨粗しょう症の基本(疫学・メカニズム・予後)

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定義

骨量が減少し、骨の組織構造に異常が生じ、骨が脆弱な状態となって、「骨折」の危険性(リスク)が増大した状態です。骨粗鬆症は「疾患」であり、骨折は結果的に生じた合併症、とみることができます。骨粗鬆症自体は痛みがありませんので、自覚がないままに「疾患」が進行し、ある日突然、「骨折」に至ります。静かに病気が進行する、という点が特徴でありかつ問題点であると言えます。

疫学
近年の大規模住民検査の報告によりますと、40歳以上の一般人のうち、骨粗鬆症の基準を満たした人は、腰椎で男性3.4%・女性19.2%、大腿骨頸部は男性12.4%・女性26.5%でした。これを年齢別人口に当てはめて推計しますと、日本の男性で300万人、女性で980万人が骨粗鬆症である可能性があります。日本人の10人に1人は骨粗鬆症である、という推計であり、かなり多くの人々が骨折のリスクを抱えていることになります。10人に1人、約10%と申し上げましたが、年代別、性別で考えることも重要です。特に女性の場合、60歳以降に骨粗鬆症が急増し、60歳代で20%台、70歳代で40%、80歳以降で60%程度が骨粗鬆症(大腿骨頸部)と推計されています。近年は健診で骨密度測定を測定することもできるようになりましたが、いまだ未診断の状況にある骨粗鬆症の患者様も多くいらっしゃることが予想されます。50歳代以降、閉経後の女性に骨密度検査を強く勧めるのはこのような疫学調査があるためです。

骨粗鬆症のメカニズムとは?
骨には骨の形成・維持に重要な細胞が2種類存在します。一つは「破骨細胞」であり、もう一つは「骨芽細胞」です。「破骨細胞」は骨の「吸収」を担当し、「骨芽細胞」は骨の「形成」を担当します。骨は一見すると何も動いていないように見えますが、古い骨は「吸収」されて、新しい骨が「形成」されます(骨のリモデリングと言います。)。私たちの骨は常にこの「吸収」と「形成」のサイクル繰り返しており通常状態ではこれらが平衡しているため、骨量は不変です。骨粗鬆症の要因の一つと「吸収」と「形成」のアンバランスが考えられています。「吸収」が上回って「形成」が間に合わなければ骨量は減少します。例えば、閉経によるエストロゲン欠乏、副甲状腺ホルモン異常などにより「骨吸収」が亢進すると、「骨形成」が間に合わない状況となり骨粗鬆症となります。カルシウムやビタミンD欠乏が続けば、「骨形成」に影響が生じます。膠原病・自己免疫疾患などの治療で用いる「ステロイド」は長期に使用する場合に骨粗鬆症の原因となりますが、これも「骨吸収」と「骨形成」のアンバランスによる影響が考えられています。
 骨リモデリング以外の要因として、「酸化ストレス」やビタミンK、ビタミンD不足による骨基質の劣化と骨質の低下も指摘されています。「酸化ストレス」の要因としては生活習慣病・加齢・閉経・血中ホモシステインの増大などが挙げられています。生活習慣病の管理というと一般的には動脈硬化などに伴う脳卒中や心筋梗塞の予防、というイメージが強いですが、骨粗鬆症にも影響をおよぼしますので注意が必要です。

骨粗鬆症の予後(治療しないとどうなる?)
 骨粗鬆症を治療しないとどうなるのか、という質問をうけることがあります。まず、骨粗鬆症の自然経過について、理解する必要があると思います。人間の骨量は生まれてから徐々に増大し20歳代で最大骨量になります。男性も女性も50歳代までは高い骨密度を維持しますが、女性は閉経を迎えると女性ホルモン(エストロゲン)が枯渇し、10年間で骨量は著しく低下します。男性も低下しますが、女性に比べると緩徐です。そもそも、自然に低下するものを無理やり治療するなんて、自然の摂理に反する、とお考えの方もいるかもしれません。人間の平均寿命が50歳程度の時代であれば、骨粗鬆症は大きな問題にならなかったのかもしれません。現在の日本の平均寿命(女性)は80歳代後半に達しており、100歳以上の方も多くなっています。女性の場合、平均寿命まで生きると仮定して、閉経後に少なくとも30年以上、元気に過ごしていただく必要があります。

 もしも骨粗鬆症を治療しない場合、骨折の危険性が増します。脆弱性骨折の中でも、「大腿骨近位部骨折」(太ももの一番太い骨の股関節に近い部分の骨折)は歩行ができないばかりか、通常は入院、手術を要し、リハビリが長期にわたって必要となります。リハビリで元通りに回復すればいいですが、元の状態に戻ることが難しく、車いす生活や寝たきり生活になってしまうケースもあります。一回骨折すれば、たくさんの時間とお金が無くなり、場合によっては移動する自由を失ってしまいます。これは個人ばかりでなく、家族・社会にとっても大きな損失です。いくつかの研究で「大腿骨近位部骨折」は死亡率を上昇させて生命予後に直結する、ということも示されています。ある研究では12年間の追跡で、大腿骨近位部の骨密度が低い群は高い群にくらべてハザード比2.58で死亡率が上昇しました(Suzukiら/Osteoporos Int. 2010 ;21:71-9)。これは年齢や体重、コレステロールや糖尿病などのいくつかのリスク要因の調整後の数値であり、骨密度が低い状態は死亡率と密接的に関連していると考えられます。せっかく高齢化社会を迎えたのに、多くの女性が骨折し、生活の質が低下するという事態は避けなければなりません。生活の質を保ち、元気に長生きするために、骨粗鬆症に対するケアは重要と考えられます。